『剣遊記[』 第六章 女戦士は元に還れる夢を見るか。 (9) ここでまた、間の悪い話。
「先ぱぁーーい! 三枝子さんば無事に見送ってきましたぁ……って、なして孝治が落ち込んでんですかぁ?」
のこのこと裕志が、一行の前に遅れて到着した。そんなのんびりムードである魔術師の右手には、大きな革製の袋が握られていた。
「まっ、よかっちゃね♪ それよか三枝子さんからいっぱい、フェニックスん血ばもらってきましたですよ☺」
孝治にちょこっとだけ顔を向けたあと、裕志は袋の中から一枚。赤い沁みの付いた布切れをつかみ出し、それをうれしそうに、荒生田に向けて見せつけた。どんな風に三枝子と話を着けたのかはわからないが、とにかく裕志は、フェニックスの血の受け取りに成功したようだ。
まあ、相手が本場モノのフェニックスではなく、(とりあえず人間の)三枝子さんだったからであろうか。
ところが肝心のサングラス😎野郎は、後輩魔術師が持っている布切れを、チラッと一瞥しただけ。そのあと冷たく言い放った。
「そげなん、もう要らんけ! 全部焼き捨てっしまえや!」
もちろん裕志の目は点となった。
「ええっ! どげんしてですかぁ?」
疑問満載な裕志に、荒生田の口調はもろ荒かった。
「どげんもこげんもなか! たった今、あの三枝子っち女が、とんでもなか食わせモンやっちゅうことがわかったとばい! やけんなんの薬効もない血なんか要らんちゃけ!」
「は、はあ……そげんですかぁ☁ そんなら✄」
いまいち納得のいかない面持ちであるのだが、先輩からの命令には絶対服従。裕志は渋々ながら、袋に詰めてあったフェニックス(実は三枝子)の血染めの布切れを全部、袋を逆様にして、地面に振るい落とした。それから発火の魔術で点火。
「……ぼくの鼻血はこれで治ったっちゃけどねぇ〜〜☁」
荒生田には聞こえないよう、ブツブツとつぶやきながらで。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |