『剣遊記[』 第六章 女戦士は元に還れる夢を見るか。 (10) 裕志が布を燃やしている一方で、孝治の放心状態は続いていた。そこへ友美が、またそっと声をかけてきた。
「ねえ、ちょっとつらい話っち思うっちゃけどぉ……わたしの推測ば聞いてくれんね?」
「……あ、ああ……なんね?」
自分でも意外と思えるほどの早い立ち直りで(それでもやや呆然自失気味も自覚しているけど)、孝治は友美の話とやらに耳を傾けた。ついでに涼子も、聞き耳を立てていた。
その友美が言った。
「わたしが思うっちゃけどぉ……確かにニセもんの可能性もあるとやけどぉ……わたしが最初っから思うとった考えでは、フェニックスん血は孝治には効かん……ちゃなかろうかっち、思いよったと♠」
「うわっち! た、確かに言いよったけど、ど、どげんしてや?」
孝治も旅立ち前の、友美の言葉を思い出した。確かにあのときから友美は、フェニックスの血の効果に疑問を抱いていた。そのときの記憶を頭に思い浮かべている孝治に構わず、友美が続けた。自分の考え――とやらを。
「だって、わたしが思いよったっちゃけど、孝治の性転換っちどげん考えたかて、病気でもケガでもなかっちゃけ……あくまでも体質の変化なんやけねぇ♣♧ もっとも、これはあくまでもわたしの推測やったんやけ、もしかしたら外れるかもなぁ……っち思いよったんやけど、どうやらいっちゃん悪い方向で当たっちゃったみたいちゃね✈」
「うわっちぃ〜〜! なんちゅうことねぇ☠」
友美の推測――と言うより、もはや確定的な結論を聞かされ、孝治はガックリと両肩を落として頭を垂れた。
実際、現実に友美の言うとおりになっている状態だから、これにはもう、ひと言も反論ができない有様。そんな孝治の背中を清美がうしろから、バシッと大きな音がするほどの力で引っぱたいてくれた。
「うわっち!」
おまけに銅鑼声での大笑い。
「きゃははははっ♡ まあ残念やったばいねぇ♡ まあ、あたいが思うに、孝治はやっぱ女でおったほうがピッタリなんやけ、一生そんまんまでおったほうが絶対いいっち思うばい、きっと♡」
『残念』と言っておきながら、まったく『残念』のカケラも感じさせない顔付き。人の気も知らないで、清美は豪快そのものに笑い飛ばしてくれた。また、彼女のうしろではいつものとおり、徳力が申し訳なさそうに孝治に顔を向け、両手のシワとシワを合わせて頭を下げていた。
今回の一件とは無関係だが、徳力の尻ぬぐい役も、一生そのまんまのような感じである。
それでも孝治は、清美に反撃する気力すら、もはやなし。ヤケクソになって、空啖呵を切り返した。
「ああ、ああ、もうなんとでも言っちゃってやぁ! これから先もおれは、女戦士で通せばよかっちゃろうもぉ!」
「ゆおーーっし! エラかぁ♡ よう言ってくれたっちゃあ♡」
「うわっち!」
孝治の叫びのとたんだった。孝治の男性復帰が夢と消えたのがうれしくてしょうがないに違いない荒生田が、いきなりうしろから抱き締め。さらに誉め上げてもくれた。そのついで、お尻と胸をモミモミするセクハラ行為も、しっかりと忘れてはいなかった。
「おめえはオレんために、美しか美少女でおってくれたらよかっちゃよぉ! これからもこんオレが、おめえば大事にかわいがってやるけねぇ♡」
「これやけん、こげな生活が嫌っちゃよぉーーっ!」
「わわぁーーっ!」
孝治からドテッと背負い投げを喰らっても、これで懲りるような荒生田では絶対に有り得ない。こいつは地面に仰向けで寝転がったまま、まだなにやら口でぼそぼそとつぶやいていた。
「ん……待つっちゃよ? 孝治には効かんかったっちゅうても、これでフェニックスん血がニセもんと決まったわけやなかっちゃけ……もう一回、なんか別んことで試したらいいっちゃね♡」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |