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『剣遊記[』

第六章 女戦士は元に還れる夢を見るか。

     (7)

 阿蘇山から北九州市への帰路の途中だった。三枝子は孝治たちと別れる道に入った。

 

 三枝子の村が北九州市と博多市の中間に位置していて、先ほどちょうど、街道の分かれ目(博多県の中央、宮若市付近)に当たったからだ。

 

 一応赤木峠を過ぎる所まで、裕志が三枝子に同行。表向きの理由は、三枝子を守るためのお伴となっていた。しかし本当は荒生田からの命令で、三枝子からフェニックスの血をなんとか、口八丁手八丁で分けてもらう算段にあった。

 

 実際裕志がお伴となったところで、いったいどのくらいの役に立つものやら。むしろ三枝子は、格闘士のプロであるのだから、足手纏いが関の山ではなかろうか。

 

 もっともそのような裏工作など、孝治の知らない所。孝治は今や、心ウキウキ胸ワクワク気分で、未来亭への帰り道を急いでいた。

 

 だがその道中、ついに我慢ができなくなった。

 

「決めたっちゃ! やっぱここで飲んじゃうばい♡」

 

 いきなり男性復帰を宣言した場所は、遠賀川の中流――直方市に入ったばかりの街道筋だった。しかも現在地は、辺り一面に黄色い菜の花が咲いている野原のド真ん中。

 

 孝治は叫んだ。

 

「男んなって未来亭に帰ったら、由香たち絶対ビックリするっちゃろうけ♡ みんなが驚く顔ば、おれは早よ見てみたかぁーーっ♡」

 

「や、やめい! そげな馬鹿んこつ真似はぁ!」

 

 この期に及んで往生際の悪い荒生田が、ここでも孝治を止めようとした。それを清美が、うしろからガシッと羽交い絞め。

 

「まあ、あたの気持ちばわからんこつなかばってん、そやけど孝治ん体は孝治んモンやけ、ここは好きにやらせちゃりや☺」

 

 清美にしては珍しく、前とは打って変わった妙にものわかりの良い発言。そんな感じで、荒生田を説得(?)してくれた。

 

「う……くく……む、無念じゃあ☠」

 

 荒生田がまたしても、ウルウルと血涙を流した。いったいなにが『無念』なのかは、孝治は知りたいとも思わなかったけど。

 

 一方、友美と涼子もハラハラドキドキの心境で、自分たちの想像の及ばない事態を静観していた。

 

『……ほんなこつぅ……これでよかっちゃかしら? あたしにはなんが正しいことなんか、もうさっぱりわからんちゃけどぉ……☢☁』

 

 孝治の男時代を知らない涼子は、終始複雑な本音を隠せないでいた。これに友美は、自分自身が本当にこの日を待ち望んでいたのかどうか。これまたはっきりとしないような面持ち。とにかく事態の推移を見守るしかない気持ちでいた。

 

「……こ、これが孝治の望みなんやけ、もうわたしたちに口出しする権利はなかっちゃよ♐✄」

 

 もやもやとしている不安感が、いまだに胸の内からぬぐえていないような顔付きのままで。


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