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『剣遊記[』

第六章 女戦士は元に還れる夢を見るか。

     (6)

 約束どおり、孝治は三枝子から、フェニックスの血が沁み込んでいる布切れを受け取った。

 

「ほ、ほんなこつもらってよかっちゃね? これって母さんに持ってく、大事な薬なんやろ☹」

 

 すっかり恐縮の胸中にある孝治は、おどおど姿勢で三枝子に尋ね返した。これに三枝子は、明朗快々で答えてくれた。

 

「それやったら大丈夫! フェニックスさんがうちにたくさんの血ば分けてくれたんは本当の話やけん✌ やけん少しくらい人に分けても、いっちょん平気ばい!」

 

 孝治は表立って疑ってはいないのだが、もちろんこの話は三枝子の嘘。涼子がこれまたこっそりと覗いていたのだが(孝治と友美には話していない⛔)、三枝子は再びある大木の陰に隠れて、短刀で自分の左手に小さく傷を付け、流れる血を布に沁み込ませていたのだ。

 

 効果はすでに実証済み(?)であるし、左手の傷も一行の前まで戻るときには、すっかり完治をしていた。

 

『でも、あんまし見とうない光景やったわぁ〜〜⚠』

 

 そのときつぶやいた、涼子の談。それはさて置き――である。

 

「そ、そうけ……そんじゃ遠慮のうもらうっちゃね♡☁」

 

 本心では九信一疑ながらも、孝治はありがたく、フェニックスの(または三枝子の)血を頂く決心をした。

 

 この期に及んで、今さら真偽の追及もなし。この際混浴の件を勘弁してもらうほうが、なにかと得策であるからして。

 

「良かったっちゃねぇ、孝治☀ これで男ん子に……戻れたらいいっちゃね☆」

 

 友美が一応は喜んでくれた。しかしその瞳には、一抹の不安感がもろに覗いていた。これは恐らく血の効果が、まだまだなんとなく信じきれないのだろうか。

 

 ところが清美のほうの対応の仕方は、友美とはまったく異なるものでいた。

 

「なんかもったいなか気がするったいねぇ〜〜☠」

 

 ポツリと漏らしたささやきが、清美の本心を見事に表わしていた。

 

「ぬしゃあ今さら男なんぞに戻らんでよかばい♐ 絶対今んほうが似合おうとるんやけ☻ やけん一生女んままでいろや☛ そりゃ昔はあたいだって、孝治にちょっと嫉妬したこともあったばってんけどねぇ★」

 

 孝治は慌てて、頭を横に大振りした。

 

「うわっち! 冗談やなか! おれは男としてこの世に産まれたんやけ、死ぬときも男でいたいっちゃよ!」

 

 もちろん清美も引き下がらなかった。

 

「そぎゃん言うたかて、こればっかしは世間様ってもんが承服せんばいねぇ〜〜☻☻」

 

「そんとおりっちゃ!」

 

「うわっち!」

 

 案の定――というよりも、むしろ当然の成り行きだった。またしても荒生田がしゃしゃり出た。

 

「孝治が男に戻るなんち、このオレがずえったい許さんちゃけ! これはオレだけやのうて、天も神も悪魔かて許さんっち思うっちゃぞ!」

 

「先輩っ! 血の涙まで流してそげなわがままば強調せんでもよかでしょうが!」

 

 孝治は慌てて荒生田から飛び離れるが、それでもサングラス😎男の往生際は超最悪だった。

 

「そげなんよかろうも! こんオレんために、おまえは生涯女でいるっちゃあーーっ!」

 

「先輩こそ早よ、そんスケベ生涯ば終わらせちゃってやぁーーっ!」

 

 それからこれまた、いつものワンパターン。孝治の右拳が荒生田の顔面に、見事ボコッと炸裂した。これでもサングラスは、いまだ無傷のままでいた。

 

「ほんなこつ、おもしろか人たちばっかやねぇ☆♡」

 

 このようななごやかなる光景(?)を微笑して見つめる三枝子のうしろでは、涼子が友美に、そっと耳打ちで話していた。

 

『実ば言うとあたしって、孝治の男姿が、いっちょも想像できんとよねぇ〜〜☁ やけど友美ちゃんは知っとうとでしょ☞ 孝治の男バージョンっち、いったいどげな感じね?』

 

 涼子の質問を受けた友美は小首を傾げ、やや困ったような顔で返答した。

 

「どげな感じっち言われたかてぇ……今とあんまし変わらん……としか答えようがなかっちゃねぇ☹☁ 孝治っち子供んころから、極度の女ん子顔で有名やったらしいから……♀♂」

 

『なんね、それって?』

 

 友美の曖昧な返答の仕方で、涼子はますます孝治の男姿が想像できなくなってしまった。


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