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『剣遊記[』

第六章 女戦士は元に還れる夢を見るか。

     (13)

 孝治や友美たち七人は気づいていないのだが、このとき遥か遠方(北側)の青空を、一羽の鳥が飛んでいた。

 

 ただし、遠くから離れて見ればふつうの鳥のようであっても、近くで拝見をすれば途轍もなく巨大で黄金色に輝く翼がまぶしい鳥。もちろんフェニックスであった。

 

 もはや多くの説明を必要とはするまい。裕志と別れたあと、三枝子はもう一度、与えられた力を発揮。再度フェニックスへの変身を試みたのだ。

 

(あん人たち、まだおもしろかぁ〜〜ってなことやりようばいねぇ♡)

 

 フェニックスの並外れた遠視力と聴取力が、三枝子に孝治たちのその後の騒動を、しっかりと捉えていた。

 

 清美徳力と友美が焚き火に当たり、孝治は荒生田と裕志を追い駆けている。そうした光景が、それこそすぐ近くで、まるで手に取れるかのようにして。

 

(お母さんの病気ば治ったら、うち、また未来亭に行ってみるばいね♡ そしてうちも仲間に入れてもらうったいねぇ♡)

 

 そのような楽しい決心を固めてから、三枝子は翼を翻{ひるがえ}し、故郷の村へと方向を定めた。

 

 フェニックスを求めた自分自身がフェニックスになった。誰もが想像できないほどとんでもない出来事の話は、絶対の絶対に秘密中の秘密。けれど、村を旅立ってからこんなにも早く目的を達成して帰ったともなれば、やはりみんながビックリするだろう。それを考えると、内心が愉快でたまらない。

 

(そういうわけやけん、うちがフェニックスになれるっちゅうこと、みんなには内緒にしちょってや☺)

 

 三枝子が秘密厳守を頼んだ相手は、彼女が現在、くちばしでくわえている、小さな袋の中にいた。

 

 阿蘇で保護をした、親を失った二羽のイヌワシの兄弟たち。

 

(あなたたちはうちが立派に育ててあげるけ、成長したら、いっしょに空ば飛ぶったいね♡)

 

 ぴいっ! ぴいっ!

 

 そんな三枝子の思いに応えるかのように、二羽のひなワシが、袋の中で甲高い鳴き声を上げた。

 

 それはイヌワシのヒナたちが、フェニックスである三枝子を、新しい親だと認めた証しでもあったのだ。

 

                                      剣遊記[ 了


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