『剣遊記[』 第六章 女戦士は元に還れる夢を見るか。 (1) 「三枝子ぉーーっ! そっから動くんやなかぁーーっ!」
清美は大声で叫ぶなり、腰のベルトから剣を引き抜いた。ついでに徳力の右手を無理矢理つかんで引き連れ、高台から一気に駆け下りた。
「わわぁーーっ! ボクも行くとですかぁーーっ!」
こうなれば無論の成り行き。荒生田と孝治も、黙ってはいなかった。
「孝治っ! オレたちも行くんばい!」
「わかっちょります! 先輩っ!」
荒生田の号令に従って、孝治も抜剣。ふたりそろって、清美と徳力のあとを追い駆けた。孝治は胸に抱いていたひなワシを、友美にきちんと預けてから。
もはや三枝子に対する立腹うんぬんなど、わめいている場合ではなかった。現実に彼女が危機なのだ。
しかも、一時は救世主のように見えたフェニックスは、すでに阿蘇連山の彼方へと消えていた。だから今度こそ、自分たちの力でサイクロプスと戦わなくてはならないのだ。
「三枝子ぉーーっ! どっか隠れんしゃーーい!」
剣を構えてサイクロプスへの突進をかけながら、清美がまた叫んだ。ところが当の三枝子は、逃げる素振りすらなし。逆にニコニコと、微笑みかけるだけの態度でいた。
「そげんおらばんかて、もう大丈夫やけ✌ こんサイクロプスば、もう充分懲りとうとばい♡」
「ぬぁにぃ?」
「どげんことやぁ?」
三枝子のビックリ発言で、清美や荒生田らが飛びっきりに仰天した。
「ど、どぎゃんこつね、それって!」
全速で駆けていた足を急ブレーキで立ち止まらせ、物凄い剣幕で、清美が三枝子に喰ってかかった。しかしそれでも、三枝子は終始笑顔を絶やさず。まっすぐに右手でサイクロプスを指し示した。
「こげんこつばい♡」
「はあ?」
三枝子に言われるまま、清美が立ち上がっているサイクロプスを、顔を上げて見直した。サイクロプスは足元に駆けつけた戦士たちには目もくれず、すごすごと森に向かって引き揚げていった。
もう新たな武器になる大木を引き抜こうともせず、吼え声さえも上げようとしないで。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |