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『剣遊記[』

第五章 フェニックス作戦第一号。

     (33)

「さてとやね☺✌」

 

 とりあえずの危険は去ったとみたか、清美が高見の見物から、よっこらせぇと腰を上げた。

 

「フェニックスは飛んでったし、サイクロプスも気絶しちょうしで、あたいらは三枝子ば捜さないかんばい☞☞」

 

「うわっち! あいつば捜すとぉ?」

 

 清美のセリフに、孝治はもろ不満の気持ちをぶち撒けた。なぜなら自分を囮にしてさっさと逃げた三枝子の振る舞いに、今も腹の虫が収まっていないからだ。

 

 さらにその気持ちへ、追い討ちをかけてくれるかのようだった。彼女から押し付けられた二羽のひなワシが、どうやら空腹を訴え始めたらしい。ピイピイと耳障りな鳴き声を再開してくれた。

 

「おれ……ややなぁ〜〜♋ もうあげなんほって帰りたかっちゃよ☢」

 

「ぬしゃ、あに言いよんね♐ 三枝子はあたいらの仲間ばい♠ そぎゃん冷たかこつ言うもんやなか✄」

 

「そげん言うてもやねぇ〜〜☢☁」

 

 今回ばかりは往生際も悪く、孝治はあくまでも豪傑清美に反抗した。ところがそんな危ない空気の中だった。荒生田が清美と孝治の間に堂々と割って入り、高台の麓を右手で指差して言った。

 

「捜す必要ならもうなかっちゃね☀ 三枝子さんがこっちば走ってきようけ☛」

 

「あんだってぇ?」

 

 言われて清美も――もちろん孝治も、ふもと方向に顔を向けた。

 

「うわっち!」

 

「みんなぁーーっ! 大丈夫やったぁーーっ!」

 

 麓の草原では、体のどこにも傷ひとつ付いている様子のない三枝子が元気いっぱい。こちらの高台に向かって、駆け登っているところだった。

 

 だが、三枝子が走っている真横には、今もサイクロプスが倒れたままでいた。

 

 徳力が大声で叫んだ。

 

「危なかですっ! 大声出したらサイクロプスが目ぇ覚ましますばい!」

 

 自分の大きな声は、思いっきり棚上げ。ついでに誰も突っ込まなかった。

 

 それからすぐに、徳力が叫んだとおりとなった。三枝子が右横を駆け抜けたとたん、サイクロプスが閉じていたひとつ目を、パチッと開いたのだ。

 

 さらにグガバガァァァァァァッ!――と、吼え声一発。大岩で頭部を痛打した衝撃も、今はどこへやら。まるで何事もなかったかのように、それもただ居眠りから目覚めたような感じで、サイクロプスが仰向けの状態から、上半身をガバッと起き上がらせた。


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