『剣遊記15』 第七章 日本に向かって宜候{よーそろー}! (7) あとには壮大な廃墟だけが残された。
「で……いったい、なんやったんやろっか?」
この大惨劇から間一髪で逃れられたものの、今の孝治にできる行動はただ呆然と現場の前に立ち、昇る煙を見つめるだけだった。
世界的リゾート地であるハワイ諸島オアフ島にふさわしい、実に豪勢な別荘だった。それが今や見る影もなく、完全にガレキとスクラップばかり。あちらこちらから今も、硝煙と粉塵がブスブスと舞い上がっていた。
そんな惨状の中で、孝治の右横に立つ千秋が、ポツリと――いや、なんだか自慢混じりにつぶやいていた。
「まさしく師匠の決定版やな☢ 話がなんや面倒くそうなってきたら、とにかくなんもかんもぶっ飛ばして、全部チャラにしてまうんや☻✍」
「なにそれ、怖い♋」
孝治の背中を今さらながら、冷たい戦慄がダダダッと駆け降りた。しかし現場は千秋の言うとおり、廃墟の中にぺんぺん草も生えていない状態。これでは生存者など、ほぼ絶望――実はひとりも死人は出ていなかった。
「ぷはぁ〜〜☠」
「ぱふぉ〜〜☢」
口から黒い煙を吐きつつ、頭を焼け焦げた人工パーマ状態にしている一団が、建物の残骸の下から、続々と顔を出していた。
もはやひとりドリフどころではなかった。ちなみに美奈子自身はこれほどの大破壊をやらかしておきながら、髪はサラサラ、素肌には一個の汚れもない、完全無欠の無傷姿となっていた。もち超マイクロビキニ姿のままで。
「で、広島の貴族はん、おまいさんから今回の裏話、一から百までかます(京都弁で『嘘を吐く』)ことなく、ぎょーさん教えてくれまへんやろっか?」
美奈子が微笑み(?)を向けている相手は、例のお坊ちゃん。豪華だった衣装も今や、古着屋でも絶対に引き取らないような、ボロボロ黒コゲの有様である。ここでの美奈子の表向き表情は快心の笑顔なのだが、孝治はいつもの調子で、彼女の本心を見抜いていた。
「毎度のワンパターンなんやけど、美奈子さんやっぱ、瞳{め}がいっちょも笑っとらんばい☠☢」
この一方で美奈子のニコやか――かつ強烈なるひとにらみによって、お坊ちゃんはすべてを観念したようだ。ノドの奥でツバをゴクリと飲んでいた。
「は、はい……おどりゃーにはもう逆らわんけ、これ以上わしらをいじめんでくれんかのぉ♋」
この期に及んで贅沢な願いをほざく貴族のお坊ちゃんであるが、もちろんこの世に神も仏もなかった。
「あきまへん☻✄」
追伸、この話には『ついで』が多いのだけど、現在美奈子から攻められ続けているお坊ちゃんのうしろには、なんとなく忘れられている存在である毒呂井も、完全パーマになって控えていた。
その毒呂井が、最後に言った。
「わしゃあ……ただの雑魚キャラなのはわかっとったが、もっとカッコええ負け方したかったのぉ😭😭」 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |