『剣游記15』 第七章 日本に向かって宜候{よーそろー}! (5) 「早い話が、あんたらは運び人にされちょったっちゅうことじゃ☠ 一般の冒険者か旅行者っちゅうことにしとけば、港の税関とか検疫所にも、引っ掛からんけのぉ⛑」
「あっ……なんか聞いたことある✐☛」
蟹礼座が話し始めたばかりだというのに、友美はもう、なにかに気づいたような顔となっていた。
「聞いたことあるって、なんね?」
孝治はすぐに、聞き耳を立ててみた。現在の空気を壊さないようにして、こそっと小さな声で。
友美は孝治の右耳にささやいてくれた。ついでに涼子も、聞き耳を立てていたりする。
「格安の旅行業者が実は闇の犯罪勢力とつるんどいて、旅行者や冒険者ば騙して表向きは観光ツアーに見せかける方法で、密輸品とか密かに運ばせる手段ばい⛹ やけん、ときどきなんも知らん旅行者が税関なんかで捕まって、無実の罪ばかぶせられるっちゅうようなね☠」
『でも、あたしたち別に、そげな怪しい荷物ば、船ん中で見た覚えなかっちゃよ⛐』
「おれもそうばい⛑」
涼子のささやき返しに、孝治も小さくうなずいた。確かにそのような危ない話は、孝治も耳に入れた覚えがあった。しかし今回の冒険――というより、ほとんど観光旅行において、そんな怪しい荷物の受け運びを引き受けた覚えなど、それこそ天地神明に誓って、まったく無いと言ったところである。友美もその点では同意していた。
「う〜ん、それば言うたらわたしかて、そげな覚えいっちょも無かけねぇ⛐ とにかく蟹礼座さんの話ば聞こ♐」
けっきょくそれに尽きるようだ。こんな無駄話(?)が静かに続いている間にも、問題である蟹礼座氏の告白は続行されていた。
「で、密輸品はラブラドール・レトリーバー号の船底に隠しとってな☟☻ これはわしが、みんなに内緒で調べてわかったことなんじゃがの✌」
「うわっち? あっさり真相がわかっちゃったばい♋」
それなら孝治も納得と言えた。実際に自分たちが船内でうろついた場所は、ほとんど船客室やらブリッジやらの上甲板ばかり。下のほうにある船倉には、まったく立ち寄りもしなかったもので。
「涼子は下まで行ったことある?」
孝治の左横では、友美が涼子に訊いていた。もちろん涼子も、頭の横振りで答えていた。
『いんや、いっちょも⛔ そげなとこ、興味無かけ⚠』
ごもっともである。ところがこのとき、美奈子は意外と冷静な態度で、蟹礼座に自分から質問をぶつけていた。
「それで、うちらも知らへんかったことを、どないしてあなたはんがお気づきになりはったんどすか? そこんとこくわしゅう教えてほしいものどすなぁ✊」
「うわっち!」
このとき孝治は気がついた。
「美奈子さん、さすがに頭に来ようみたいっちゃよ♋ 見てみい、眉間にだんだんとシワが寄り始めようけ☢☠」
「そりゃ美奈子さんかて、自分がなんかに利用されよったっち知ったら、本気で頭に来るっち思うばい☠」
友美もしゃべる口が震え気味になっていた。
「言っておくがのぉ、そのアイデアを先に考えたんは、そこにおる遭難者気取りの御仁じゃけのぉ☠☻」
ここでなぜか、広島貴族のお坊ちゃんが、どこか言い訳じみたセリフを吐いた――いや、吐こうとしたときだった。
「もう、あかへん! あほらし戯言は堪忍したってやぁーーっ!」
美奈子が突然にブチ切れた。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |