『剣游記15』 第七章 日本に向かって宜候{よーそろー}! (4) でもって、もう終わりも近いので、途中のエピソードを端折る(平仮名で『はしょる』のほうがいいか)。
「あなたはんだったんどすか♋」
非常に珍しい光景だった。美奈子が本気の感じで驚いていた。その美奈子の前には、ひとりの高貴そうな衣装を身にまとった青年がいた。
「美奈子さん、知ってる人なんけ?」
孝治は『まさか♋☆』の思いで尋ねてみた。美奈子は口の右端に、ふっとした笑みを浮かべて答えてくれた。
「今回の冒険のスポンサーはんどすえ☞ まさかこないな所で再会するやなんて、このうちかてぎょーさんビックリさせてもらいましたわ♋♋☻」
「すぽんさあ?」
孝治はどうにも話がピンとこないまま、美奈子が紹介するところのスポンサーとやらに顔を向けた。それは孝治も日本でときどき拝見する、典型的な貴族のお坊ちゃんであった。ただし口にくわえている葉巻きが、似合わないこと似合わないこと。まるで喫煙をして大人ぶる、少々ツッパリ気味の中学生といった感じ。
「もしかしてこれが、その殿下って人? ……まあそうみたいっちゃけど☹」
それでも一応貴族らしいので、だから仲間から『殿下』などと呼ばれるのであろう。その点だけは孝治も納得した。問題はこのようなお坊ちゃん殿下が、今まで戦ってきた、敵の総大将らしい点であるのだが。
とにかくとまどいの渦中にある孝治はほっておかれ、美奈子のきつい目線は、その貴族のお坊ちゃんに向けられていた。
「おひさしぶりどすなぁ☠☻ 航海に出発前の、広島以来でおますなぁ⛴」
「そうじゃのぉ……☻」
お坊ちゃんが返事を戻した。やっぱり広島の者だった。
同じ文章を繰り返すが、そいつはやはり貴族らしく、豪華な衣装を身にまとっていた。それなりの宝石付きの装飾や、両側をクルリとパーマで丸めた感じの頭のセットなどなど。それなのに口にくわえている太い葉巻きが、それらの気高さをブチ壊しにしている様が、自分ではまったくわからないのだろうか。
まあ、その辺のささいなことなど、最初っから気にもしないようだ。美奈子が早くも勝ちに入った立ち振る舞いで、貴族の坊ちゃんに詰め寄った。
「さあ、納得のいく説明をしてほしいものどすえ☠☻ このうちらに豪勢な旅行をプレゼントしてくださったおまいさんが、どないして悪のラスボスなんかをしてはるのかを⚠♨」
「それはじゃのぉ……✊」
お坊ちゃんのほうも、早くも観念のきざしを見せていた。もはや逃げも隠れもできないと承知したのか、早々に白状をしてくれそうだ。
だがそれよりも先に、今回の本当の主役とも言える人物が前に出た。
「それはわしが言ってやるけんのぉ♪☻」
「蟹礼座さん!」
孝治は本心から驚いた。ハワイに来た早々、悪者(?)どもに連れ去られ、その救出のために孝治たちに大暴れをさせてくれた張本人が、堂々とした再登場の仕方をしてくれたので。それも孝治たちが飛び込んだ部屋の、さらにもうひとつ奥のドアが開いて――であった。
それは捕まって囚われの身であるはずなのに、ごくふつうに二本の足で立って現われたことにも、その堂々さがはっきりと示されていた。
ただし、上半身のほうはいまだに太い縄で、グルグル巻きの状態なのだが。
「ほな、教えてもらいましょっか☞☻」
しかし、このような蟹礼座の登場の仕方にも、美奈子はほとんど動じていない感じ。航海中、あれほど熱を上げ、あげくは夜這いまで強行した日々は、いったいなんだったのだろうか。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |