前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記15』

第七章 日本に向かって宜候{よーそろー}!

     (10)

 この三人(孝治、秋恵、蟹礼座)の様子を、別の樹木の陰から見つめている者たちがいた。

 

 言うまでもなく美奈子たちである。

 

「師匠、秋恵姉ちゃんから、一歩抜かれた感じになったみたいやなぁ☻」

 

 千秋の口調は師匠を気遣っているようでいて、実は遠慮なしの辛辣気味。それでも弟子の言葉に、美奈子は不敵そうな笑みを崩していなかった。

 

「ふっ♡ まあ、これでうちが負けたわけでもあらしまへんのやで 今回だけたまたま、蟹礼座はんの秘密をあの娘{こ}が先に知りはっただけどす☛✍ まあ、あのお方はうちらの手には届かへん、高嶺の花やった、っちゅうことでんな

 

『なんか、いっちょも意味がわからせん、言い訳と負け惜しみの極致みたいなこと言いようばいねぇ✄』

 

 この場に同席している涼子も、美奈子に辛辣の評価を与えていた。

 

「うふっ♡」

 

 やはり同席者である友美が、涼子の苦言に、思わずで噴き出しそうになった。もちろん美奈子にバレては大事{おおごと}なので、なんとかノドで留めるように注意はしているが。ちなみにこの場で友美と同じように幽霊(涼子)の存在を認識している千秋も、今のセリフを耳に入れていた。だけどまったくの無反応的態度で、秘密保持に協力をしてくれた。ちょっとだけニヤッとしているけれど。

 

 でもって蚊帳の外でありながら、その認識まるでゼロとも言えるのが、千夏という少女。

 

「あれぇ? 孝治ちゃんとぉピンク色の秋恵ちゃんの玉さんとぉ、それにぃヒゲのおじちゃんがぁ、こっちに来ますですよぉ☞」

 

 彼女が右手で指差す先では、どうやら話が着いた模様。先ほどの三人が、美奈子たちのいる樹木のほうに向かって歩いていた。つまり三人とも、美奈子たちが樹木の陰から話を聞いていることを、初めっから知っているわけ。

 

 おっと、千夏の言うとおり、秋恵のみは衣服の用意がまるで無かったので、いつものピンクボールに姿を変形させて、孝治と蟹礼座についてきていた。見た目そのまんまで、コロコロと転がりながらで。

 

「どうやら決着したようでんなぁ☻」

 

 もともと全員承知のこととは言え、もはや隠れる必要なしと見たらしい美奈子が、樹木の陰からスクッと立ち上がった。無論布面積が極端に少ない、超マイクロビキニ姿のまんまで。

 

「待ってましたで、蟹礼座はん

 

「うわっち!」

 

「うわあっ!!」

 

 このときだけ心の準備がなかった孝治、蟹礼座の御両人が、これまた地面から二メートル近くも飛び上がった話は、もう物語も終盤近いのでカットする。ただひとつ付け加えれば、千夏が終わり近くになって、なぜかほっぺたをふくらませている件があった。

 

「ぷんぷんぷん☹ 千夏ちゃんだってぇ美奈子ちゃんといっしょにぃ、あのおうちの中で走り回って大活躍してたのにぃ、作者さん全然書いてくれてないんですうぅぅぅ☹☹☹」

 

 それをなぜかと問われれば、無邪気過ぎる千夏のはしゃぎようまで書いていたら、話が長くてややこしくなるからである。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system