『剣遊記15』 第七章 日本に向かって宜侯{よーそろー}! (1) 別荘内のあちらこちらから、黒い煙が立ち昇っていた。
原因は語る必要もなし。美奈子が必要以上のパワー魔術でもって、建物のあちらこちらを壊しまくったからである。
それでも当の美奈子は、かなりに不満気味の感じ。
「なんや、ちいとも手ごたえあらへん、ヤワな悪の組織でんなぁ☹ これやったら日本にそのまんまおって、怪物退治に専念しとったほうが、よっぽどやりがいと言うもんがあったもんでおますわ☠」
「ハワイに怪物が出たっちゅうような話、海外ニュースでも聞いたことなかっちゃけねぇ♐」
孝治は美奈子の好戦的なセリフに戦慄しつつ(背中に鳥肌が立った☠)、ハワイがモンスターの空白地帯であることに感謝した。確かに海賊その他はよく出没するらしいのだが、クラーケン{海魔}やリヴァイアサン{大深海獣}などの産地は大西洋やインド洋がほとんどであって、広過ぎる太平洋は、どうやら彼らの棲息にはあまり向いていないようなのだ。
話が横道にそれた。元に戻そう。
とにかく孝治たちの活躍により(主力は美奈子)、あれほどワンサカ出てきた用心棒軍団も、大方片付いた感じ。今では行く先行く先に、ひとりも現われる様子はなかった。
「あげん派手に撃退しまくったら、相手かてビビりまくって逃げるんも当たり前っちゃね✌ おかげで前進が、だいぶ楽になったっちゃけど✈⛴」
孝治たちは硝煙(?)がムンムンと立ち込める別荘内の通路を、ひたすら全速で駆け抜けていた。そんな一行の前を、まるで露払いでも勤めているつもりか、一個のスイカ大――いやいや、直径が今ではジャンボカボチャ大になっているピンクのボールが、ゴロゴロと転がっていた。
説明の要なく、秋恵が球体になったままの姿なのだが、なぜスイカからジャンボカボチャくらいにまで大型化したのかと言うと、彼女が球体の内部に空気を取り込んで、ボールの体全体を、風船のようにふくらませたからである。
なんと言っても、スイカ大のままでは迫力不足だし、巨大化したほうが敵さんが怖がって逃げるだろうと思ってのことだと、あとで秋恵がみんなに説明してくれた。
「見てん! 前んほうに大きな扉があるっちゃよ!」
そのピンクボールを一生懸命追い駆けている友美が、走っている途中で、急に前方を右手で指差した。瞳の先には確かに、大型で両開きタイプの扉が、孝治たちを待ち受けるかのように、デンとそびえていた。
「なんかようわからんちゃけど、もうなんでんかんでんぶっ壊すばぁーい!」
もはや勢いが止まらない思いの孝治は、走りながらで大きくジャンプ。扉に向かって、大袈裟気味な飛び蹴りを決行した。
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