『剣遊記15』 第六章 我、真珠湾に上陸せり! (17) 「ほな、行きまっせぇーーっ♪♡」
美奈子が右手を高く天井に向けて上げ、そのままなにかのボールを投げるかのように、大きくビュンと振り落とした。
早い話がピッチャーのごとく。
当然、振られた右手から、なにかが発射された模様。
「な、なんやろ?」
孝治は一瞬、自分がなにもかも見失ったような気持ちになった。だけどすぐに、次の展開で事態が判明した。
「うわっち!」
大きく振られた美奈子の右手の先端から、バシューーッと激しい水の塊が飛び出したのだ。
「ウルトラ水流魔術っちゃよ!」
友美が今、瞳の前で起こっている事態を解説してくれた。
「指の先に空気中に漂う水蒸気ば集めて、それを一気に水分化して敵にぶつける攻撃魔術ばい! やけど水蒸気ばかき集めるのに強い精神力が必要なんやけ、これができる魔術師って、日本に十人くらいしかおらん、っち聞いたことあるっちゃけ✋✋」
『それやったら美奈子さんも、その十人のひとりっちゅうことやね✐✒』
涼子の口調も、心なしか興奮気味でいるようだ。もちろん孝治も。
「じゃ、じゃあ、この水流ばまともに受けた人は、いったいどげんなると?」
すぐに友美が、右手で指差して答えてくれた。
「あげんなると☞」
「あぎゃあーーっ!」
超破壊的な水流を孝治の言うとおりまともに受けて、美鬼が後方百メートル(オーバーな表現)の先まで吹き飛んだ。
高い報酬をもらったくせに、髪の毛の先ほども役に立たなかった魔術師の断末魔であった。
ただし、決して死んだわけではない。
「あの人、いったいなんしに出てきたんやろっか?」
改めて湧いてきた疑問を、孝治はポツリとつぶやいた。彼が美奈子撃退に成功すれば、プラチナ貨五十枚をもらうはずだった話など、まるで知りようがないので。
ついでに孝治は考えた。
「なして兄貴が河内弁で、弟が広島弁なんやろっか?」
この疑問ももはや、永遠の謎となりそうだ。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |