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『剣遊記番外編V』

第三章 悪魔がやってくる。

     (3)

「ほんとに急ぐじゃんねぇ☻ もうちっとゆっくりしたってええって思ってんのにぃ✌」

 

 珠緒が不思議感を表立って出しているほどに、可奈と美香は慌ただしく、出発の準備を整えていた。

 

「いんや、気づかいはいらねえずら✄ とにかくあたしらの雇い主から、早よう帰るよう言われとうさけぇ♐」

 

 可奈は声を荒げに言い訳をした。しかし、そのセリフの約半分は嘘であった。別に黒崎店長から、早く帰るように言われているわけでもないので。それよりも可奈は、疑惑を抱いていた。もしかすると、珠緒は昨夜目撃をした、悪魔崇拝集団の一員かや――と。

 

 もしも本当にそのとおりだったら――この地で愚図愚図している間に彼らに捕まり、美香ともども悪魔に捧げる生け贄にされかねない。

 

 そんな残酷極まる最期など、絶対の絶対、未来永劫御免被りたいところだ。

 

「そんじゃ、さいなら♠ 一宿一飯の恩さ、おかたしけねぇ♦♣」

 

 作り笑顔を見せてから珠緒に背中を向け、可奈は早足で、山小屋をあとにした。声には出していないのだが、ノドの奥から、こっそりとつぶやきながらで。

 

(もう二度と、ここには来んずらけどね✈)

 

 そんな可奈の本心など、珠緒が知るはずもない感じ。

 

「ほんじゃ、さよならぁ〜〜☆」

 

 珠緒はこれまた無邪気に、かつ能天気に右手を大きく振っていた。またこれに、美香も両手を振って応えようとしたのだが、可奈は強引にその右手のほうを握り締め、山道をさらに速い歩足で下っていった。

 

「別れの挨拶なんてせんでええ! 早く行くだにぃ!」


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