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『剣遊記超現代編T』

第五章 これからの未来、わかってないけどやめられない。

     (8)

「聞いた?」

 

「うん、聞いた♋」

 

 荒生田と牧山のある意味で悪だくみを、陰から聞いている者たちがいた。

 

 密かに盗聴――と言うほど大層ではないが、早い話が盗み聞きである。その盗み聞きをしている者たちは、荒生田と牧山がいるテーブルの、もろ真後ろに席を取っていた。

 

 しかも人数たるや、なんと六人。いずれも若い女性ばかり。おまけに派手系サングラスや、いろいろな色彩であるファッション用カツラ――ウィッグまでも装着していた(六人とも髪が長いので、長髪タイプのウィッグを使用)。ついでに服装も、アイドル風やメイド風、果てはブレザー風などの、実にケバケバしいコスプレ仕様。

 

 つまり変装しているわけ。しかしこれだけ派手な変装をしても、今の世ではさほど目立つ存在ではないのだから、現実の日本社会のほうが遥かに派手となっているのであろうか。

 

 だがもちろん、六人はプロのコスプレイヤーではない。ただ緊急の間に合わせで、どのようなアニメにも出ていないキャラクター風の美女を装っているだけ。

 

ぶっちゃけて正体を明かせば、元孝治たち四人と妹の涼子。さらに編集記者の友美までが、このようなコスプレに参加をしていた。

 

 理由はなにか。

 

 一箇月近く前の撮影のあと、涼子から報告された、荒生田の悪だくみについて――であった。

 

 あの日――涼子は研修寮の裏庭で、偶然にも荒生田の悪だくみを陰で聞いていた。それから撮影終了後の着替えのときに、(現在)姉である元孝治たち四人と友美に、そのような陰謀(?)が進行中という事態を報告。つまりきょうの変な――はっきり言って似合わないコスプレは、涼子の言うとおり、もろに怪しい行動を見せる荒生田を見張るためなのだ。

 

 ちなみに冒頭で発言をしたふたりは、孝江と孝乃である。その次――と言うわけでもないが、続いて治代がうなった。

 

「あんの野郎ぉ〜〜♨ おれ……やないあたしたちの禁断のヌードば使ってこっそり儲けようなんち、なんちゅうこすいおっさんなんね☠」

 

「ねっ、あたしの言ったとおりやろ✌」

 

 対照的に涼子は、得意満面の笑顔丸出し。初めは半信半疑だった四人の元兄――現在姉たちと友美を、ここまで引っ張って来た甲斐があったと言うものだろう。

 

「まさか、荒生田さんが海外にまであんなコネを持ってたなんて、わたしそこまで想像できなかったわ……♋」

 

 金髪のウィッグをかぶっている友美も涼子の右隣りで、瞳を真ん丸くしていた。さらに青いウィッグを頭に装着。ブレザー風衣装で定番の丸いトンボメガネ(念のため度無し)をかけている孝江も、さかんに歯ぎしりを繰り返していた。

 

「あんにゃろ〜〜♨ 紳士の顔ばしちょったくせに、裏で汚ねえ小遣い稼ぎばしやがって、ほんなこつおれたちにも分け前ばよこせっちゅうとこやねぇ♨♨」

 

「怒るとこ、そこ?」

 

 すぐに涼子が突っ込んだ。こちらはなぜか、白が基調のセーラー服姿だったりする。定番でやっぱり額ぶちメガネをかけているけど。ちなみにウィッグは無し。

 

「まあ、それは置いてやねぇ

 

 黄色のウィッグをかぶっている治代(紺のブレザー姿)が、ふたり(孝江と涼子)の間に入った。

 

「あげな不埒なたくらみば、こんまんま見逃すわけにはいかん、っちゅうことやね✄ こりゃあお仕置きが必要な局面やけど、どげんやってしばいてやろうかねぇ☻」

 

 なぜか両手の指を、ポキポキと鳴らす治代であった。

 

「まあ、全部暴露ばして、会社ばクビにするのは可哀想やけ、二度とあげな不埒な真似ばせんよう、適当にしばくのがええやろうねぇ☻☻」

 

 さらに赤ウィッグの孝乃(白エプロン付きのメイド姿で、青いサングラス着用)が、全員の耳にひそひそとささやいた。

 

 これら六人の目線の先では今もなお、荒生田と牧山の悪だくみが続けられていた。まあどちらかと言えば、あまり気乗りのしていない様子である牧山の尻を、荒生田が先輩の特権で蹴りまくっている感じがするのだが。


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