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『剣遊記W』

第七章 ワイバーン騒動後始末。

     (6)

 いったいなんのために現われたものやら。まるで一陣の旋風{つむじかぜ}。だがこの次には、さらなる巨大な台風が迫っていた。

 

 もちろんすべてが手遅れだった。人間どもから言われのない虐待を受け続け、今や怒り心頭のワイバーンである。グアガアアアアアアアアアアアアアッッと、孝治たちに逃げる暇{いとま}も与えず、ガラス張りの店長室に襲撃をかけてきた。

 

 ガッシャアアアアアアンン! バキバキバキバキッ! グアッシャアドガアアアアンンンッ! 轟音が周囲に鳴り響く。

 

「お、俺の店がこわれでぐぅーーっ!」

 

 ここで泣き叫ぶ店長の脳天に、へし折られた柱が、ゴンッと直撃。

 

 これにより、店長は失神。このあとの店の崩壊を見なくて済んだわけであるから、ここではこれで幸福と言うべきか。

 

 それよりも問題となった者は、ワイバーンの矢面に立たされた孝治と友美であった。

 

「や、やあ……どうも……☠」

 

 孝治は自分に鼻先を向け、ギロリとにらんでくれているワイバーンに、引きつり承知の笑顔を向けて右手を上げた。そんな孝治の左腕に寄り添っている友美も、想像を絶するであろう極限状態で、体が硬直化しているようだった。

 

「……わ、わたしたちんこつ……怒っちょうかしら……☠」

 

 また、さっきまで怖いもの知らずでいたはずの涼子でさえ、ここではもはや、例外とは言えなかった。

 

『た……たぶん……やろうねぇ……☠』

 

 涼子の言葉を聞きながら、自分も震えまくりを承知している声で、孝治はそっとささやいた。

 

「……あんだけ、おれたちで虐めまくったんやけ……半殺しや済まんやろうねぇ……☠」

 

 今のセリフに、涼子が応じてくれた。それでも口調は、余裕のない状態だった。

 

『……半殺しで済まんっち言うたら、全殺しっちゅうことぉ? あたし、ここで若くして死んじゃうとやろっか?』

 

「もう、突っ込まんっち、言うたろうも♨」

 

 一応空元気で返しつつ、おれもとうとう年貢の納め時っちゃねぇ――と、孝治は頭で念仏を唱えた。

 

 そこで、意外すぎる展開が起こった。


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