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『剣遊記W』

第七章 ワイバーン騒動後始末。

     (5)

 ガラスの壁の向こうには、こちらに向かってまっすぐに走ってくる荒生田と裕志。さらにこのふたりを追い駆けるワイバーンの、獰猛極まる恐ろしい姿が見えていた。

 

「うわっちぃーーっ! やっぱおれんとこまで来ちまったばぁーーい!」

 

「な、なんがあってんだあ!」

 

 孝治の慌てぶりにつられたのか、店長もうしろに振り返った。

 

「げえっ!」

 

 ガラスの向こう側では、ワイバーンが店舗を徹底的に粉砕中。口から吐く火炎で焼き払う光景が広がっていた。

 

「お、おらん店がぁーーっ!」

 

 これには店長も、口あんぐり。この隙を孝治は見逃さなかった。

 

「と、友美ぃーーっ!」

 

 素早く店長に飛びつき、友美をその手から奪い返した。だが今の店長にとって、人質を奪還された失敗など、それこそもはやどうでもよいことだった。

 

「やめろぉ! こんなぼっこうなことやめでぐでえーーっ!」

 

 完全に涙声の店長が、泣き叫んでいる前だった。逃げてくる荒生田と裕志のふたりが、体当たりでガッシャアアアアアアアアンッとガラスを叩き割り、そのまま店長室へと乱入。慌てふためきっている先輩後輩のふたりには、すでに透明なガラスなど、それこそアウト・オブ・眼中であったのだ。

 

 なお、ガラスを体当たりで粉砕しておきながら、荒生田はその身に(サングラス😎にも)傷ひとつなし。その代わりでもなかろうけど、孝治の存在に気がついたご様子。

 

「おおっ! 孝治やないけぇーーっ! オレんためにこげなとこにいてくれたっちゃねえ♡ ゆおーーっし! 先輩とともに逃げようぞぉーーっ!」

 

 無論、半裸に近いバニーガール姿の孝治である。荒生田は事態の大混乱も忘れ、ガラスを割った勢いのまま、孝治の体に一直線で飛びつこうとした。

 

「うわっち! んな場合やなかろうも!」

 

 ところが逆に、孝治の回し蹴りを、ドガツンッと喰らう始末。荒生田は隣りの部屋まで、ピューーンと飛んでいった。

 

「先ぱぁーーい!」

 

 裕志(こちらもなぜかケガなし)も慌てて、変態のあとを追っていった。


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