『剣遊記W』 第七章 ワイバーン騒動後始末。 (10) 孝治のあとからは、やはり友美と涼子(思いっきりしつこいけど誰も知らない)。裕志と荒生田も追ってきた。
「孝治っ! 麻薬っていったい、どげんことやあ!」
荒生田はなにがなんだか皆目わからないまま、孝治につられて走っているだけのようだった。それがとぼけた口調で、孝治に大声で尋ねてきた。
何度も繰り返すが、荒生田は沢見からなにも重要な話を聞かされないまま、正義のため、がむしゃらに大暴れをしただけなのだ。これに孝治は息を切らしながら、やはり大声で答えてやった。
「こ、こん店の悪事の大元ですっちゃよ! 確か中庭にいっぱい積まれて……☁」
しかし問題の中庭に来てみると、辺りは瓦礫{がれき}と灰の山。ワイバーンの破壊が、ここまで及んでいたのだろう。だが、肝心のモノは見当たらなかった。
孝治は、また叫んだ。なんだか叫んでばかりのようでもあるが。
「ない! 袋も馬車もいっちょもなかぁ!」
孝治は中庭周辺を、思いっきり見回した。だけど、そこら辺に転がっていてもよさそうな革の袋が、なぜかひとつ残らず消え失せているのだ。
当然、荷車も馬もなくなっていた。
「こ……こげな馬鹿んことっち……☠」
全身の筋力がガックリと抜けた気になって、孝治は地面に両手の手の平と両足の膝をつけた。それからこんなときになって、裕志がポツリとささやいた。
「そげん言うたら……沢見さんと沖台さんば見らんけどぉ……どこ行ったっちゃろっか?」
荒生田も裕志に同調した。
「おう! そげん言うたらそうっちゃねぇ? きのうはこんオレに散々『この店は悪い野郎やさかい、一気にやっつけやあ!』なんち、すっげえ息巻いとったのによぉ☁」
裕志のセリフも荒生田のセリフも、孝治の(ふだんはにぶい)勘にある事実を気づかせるには、あまりにも充分すぎだった。
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