『剣遊記W』 第三章 ワイバーン捕獲前哨戦。 (3) 「……っちゅうわけたい☻ 今度荒生田が四国にワイバーン狩りに行くことになったけ、俺の代わりに護衛として……いや監視役として行ってくれんね✌ こんまんまやったら、裕志があまりに気の毒すぎるけねぇ☁」
「ふぁ〜〜い♡ わっかりましたぁ〜〜♠♢ 帆柱先ぱぁ〜〜い♦♪♫♬」
このとき帆柱は、孝治の頭が二日酔いでヘベレケ状態である様子に、まったく気づかなかったのであろうか。だが、たとえそうであったにせよ、帆柱は実際に気が急いていたようなのだ。
昨夜の焼き肉屋で言っていたとおり、お得意先であるキャラバン隊の護衛へと出向くために。
「すまんね♥ 恩に着るけ♥」
とにかくこれでひと安心とばかり、帆柱はさっさと、仕事へ出かけてしまった。
このあと孝治は、いったん自分の部屋へ戻り、酔いが醒めるまで熟睡していた。そこへ荒生田が押しかけ、話がとんとん拍子に進んでいたことを知って、正直ビックリ仰天したのである。
「あんときはほんなこつ寝耳に水やったけねぇ♨ 帆柱先輩が言いよった意味が、よくわからんまんまやったもんねぇ……♨」
自分がいつの間にやら、ワイバーン狩りの一員に組み入れられていた驚き。孝治は今さらながらに、しみじみとつぶやいた。
その後、事態の急展開を悟った孝治は、すぐに仲間の援護を頼もうと、方々を走り回った。
だが遅かった。
「美奈子さんは一週間も前から自分で申請ば出して、千秋ちゃんと千夏ちゃんば連れて、どっか遠くに行ったみたいやしぃ✈ 」
『秀正ってのはぁ、奥さんの出産立ち会いで、田舎に帰っちゃったばいね✈』
友美と涼子がふたりで連唱したとおり、孝治の周辺は全員不在中となっていた。
またこの他にも、清美と徳力はお隣り佐賀県から怪物退治のお声がかかり、帆柱と到津は前述どおりのスケジュールであった。
『けっきょく孝治ってぇ、未来亭の中でいっちゃん暇やないと?』
「うわっち!」
涼子の澄ましたセリフが、自分の最も痛い部分であった事実。孝治の心臓が激しく鼓動した。
「そ、そげなこつなかっちゃよ! 先輩に頼まれることかて、立派な仕事やけね✐✑」
慌てて涼子の指摘を否定したものの、孝治の言い訳は、それほどの詭弁と言うわけでもなかった。それにもともと、尊敬する帆柱先輩の頼みであれば、なんだって引き受ける腹積もりであったし、なによりも南九州の霧島山で、命を助けられた恩もある。
そのときの借りを少しでも返せるチャンスと考えれば、今回酒混じりの承諾でも、それほど格好の悪いものではない――と言えた。
(まっ、自分で都合ようこじつけとうっちゅうのは、これも承知なんやけどね☁☃)
ここでもやはり、内心で自嘲する孝治であった。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |