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『剣遊記W』

第三章 ワイバーン捕獲前哨戦。

     (2)

 しかし心なしか、裕志の顔色は、いつもより格段に青白く感じられた。

 

「や、やあ……☁」

 

 これは現在、赤い状態でいる孝治とは、完全に対照的であった。

 

 波はおだやかであるから(たまに大波もあるけど)、顔色の原因が船酔いだとは、初め孝治は思えなかった。ところがあっさりと、裕志自身が原因を語ってくれた。

 

「……さっき、凄い波がきて船が揺れたとやけどぉ……孝治と友美ちゃんは大丈夫やったね? ぼくなんか、もう酔っちゃったみたいやけ……うぷっ!」

 

 船酔いだったのだ。青い顔の原因は。

 

「おまえ……あの程度の揺れで、もう船に酔ったとや?」

 

「ま、まあね……うぷっ!」

 

 あまりにも情けない裕志のひ弱さに、孝治は我が耳を疑った。

 

 確かにコケるほどの強い揺れではあった。だけどふつうは一回こっきりの波程度で、即座に酔うやつっちおらんやろ――と、孝治は思っていたからだ。

 

(こいつ……虚弱体質に、ますます磨きがかかったんやなかろうねぇ?)

 

 口には出さないよう、孝治はつぶやいた。このような陰口を面と言われて平気なほど、裕志の精神が強靭ではないことを、孝治はよく知っているから。

 

 無論、孝治の頭の中など知るはずのない裕志が、ここで深々と頭を下げた。

 

「そ、それよか、今回はほんなこつ礼ば言うったいね♥ ぼくたちの旅に同行ばしてくれて☺」

 

「ま、まあね……☹」

 

 孝治は苦笑いで応えるしかなかった。なぜなら孝治にとって、今回の旅は裕志のためでも――ましてや旅の主役であるサングラス😎野郎のためでもないからだ。

 

 本当の理由は他ならぬ帆柱先輩から直々に頼まれ、嫌々ながらも同行を承諾したのである。

 

 あの日、孝治は酒豪――と言うよりも酒乱で名高い清美と徳力の祝勝会に付き合わされ、前後不覚になるまで酒を飲まされていた(しかし友美と涼子の証言によれば、自分からけっこうガバガバと飲んでいたらしい)。

 

 結果、見事な二日酔い状態。孝治はそのままで、帆柱からの依頼を請けたのだ。

 

(こげな大事な話やったら、せめてシラフんときに言ってほしかったっちゃねぇ……☠)

 

 今さら後悔しても遅い孝治であった。ちなみにそのときの場面を再現すれば、次のようになるらしかった。


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