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『剣遊記W』

第三章 ワイバーン捕獲前哨戦。

     (11)

「ぎゃははははっ! たまにおるきにい あんな身の程知らずがのう☞」

 

 野次の発生源は、窓際のテーブルでとぐろを巻いている、野郎ども三人組。鎧を着用し、腰に剣を備えた格好から見て、彼らも孝治や荒生田と同業の戦士のようである。

 

 さらに土佐弁でわめいているので、たぶん地元の連中であろう――とまあ、それはそれでけっこう。ただ連中には、品というモノがなさすぎ。同じ戦士稼業を営む者として、孝治はとても恥ずかしい思いを感じていた。

 

「あいつらぁ……♨」

 

「待ちなはれや⛔ 孝治はん✄」

 

 孝治は椅子から立ち上がって、連中の所に文句を言いに行こうとした。ところが沢見からガシッと右手をつかまれ、勇み足を引き止められた。

 

「うわっち! 沢見さん、あいつらほっといてええとね?」

 

 孝治は沢見をにらんでやった。だけど自称大阪商人に、動じる様子はまるでなし。

 

「あんなアホどもはほっといたらええんや♪ こちらは大事の前の小事やねん♧ わいらはあしたのことだけ考えたらええねん✌」

 

「そんとおりやぞ、孝治☻ オレたちには大きな野望があるったい☺ やけん小さかことに関わっちょる暇はなかっちゃぞ☀」

 

 珍しくも荒生田までが、野次に無視を決め込んでいた。これがいつもであれば、自分が真っ先に逆ギレ。たちまち大ゲンカになる場面であろう。それが今回、孝治を偉そうに説教までしてくれるのだから。

 

 荒生田が言うところの、『大きな野望』うんぬんの実体は、ともかくとして。

 

 一方で野次を無視されて、こちらのほうが逆ギレしたらしい。男どもがよせばいいのに、わざわざ孝治たちの席まで寄ってきた。

 

「おまんらー、なんもわかっとらんようきに、わしらが教えてやるがのう☠」

 

 人を挑発する行為が大好きな連中は、その反動で、相手にされない――つまり無視をされることが大嫌いなモノである。しかも男たちの足がふらついている様子を見ると、呂律こそしっかりしているものの、実はかなり酒が回っているようでもある。

 

 そんな野郎どもの、大きなお節介が始まった。

 

「ワイバーンをそこら辺の半端な怪物といっしょにしたらのう、冗談抜きで後悔だけじゃ済まんぜよ☠ 頭っからバリバリ食われて、跡には骨もなんも残らんきに☠ それが嫌じゃったらおとなしゅう、死骸探しでもしとったほうが利口ってもんぜよ☛」

 

「そうそう♬ 年に一度はおるきのう♫ おまんらみたいな無謀者がよう♪」

 

 これでご親切に忠告をしているつもりらしい。しかしあいにく、土佐弁を除けばどのセリフも、いつかどこかで聞いた覚えのあるような、独自性のない内容ばかり。むしろこれらのお節介セリフから、孝治は彼らの素情を推察した。

 

(ははぁ〜〜、こいつらおれたちよか前に、ワイバーン狩りに挑戦して失敗したっちゃね★)

 

 恐らくは自分たちの敗北を棚に上げ、くやしまぎれに新参の挑戦者をからかっているのだろう。

 

「おまんらあ! 聞いとんのかあ!」

 

 いつまでも挑発に乗らない孝治たちに、勝手に業でも煮やしたのだろうか。男のひとりが怒鳴り声を張り上げた。

 

 どこまでも手前勝手な連中である。

 

「おまんらのためを思って言ってんぜよ! なんとか『ありがとうございます★』とても言ってみろっつんだよぉ!」

 

 そんな大きなお世話をほざいた男が、どさくさまぎれで孝治の背中に、負ぶさるようにして抱きついた。

 

「うわっち!」

 

 孝治は口から、心臓が飛び出す思いがした。けれども男は、さらにぬけぬけと言ってくれた。

 

「こんな可愛いお嬢さんまで、ワイバーン狩りの巻き添えにすんじゃないきに! なあ、こんな連中とは別れて、俺たちといっしょに行くがよ♡」

 

「うわっち!」

 

 孝治は別の意味で驚いた。

 

 なんのことはなかったのだ。三人組のお目当ては、初めっから孝治だったわけである。


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