『剣遊記番外編V』 第二章 深山の狼少女。 (9) 珠緒は狼に変身するわけでもなかった。それよりもまるで、なにかを求めているかのようでもあった。とにかく彼女は夜の山道を、ひたすらまっすぐに突き進んでいた。
そんな珠緒のあとを、リスに変身中である可奈は、生い茂る樹木の枝から枝へと飛び移りながら、一生懸命に尾行を続けていた。
もともと黒衣に身を包んでいれば、それはそれで夜道での追跡は容易だったはず。だけど小動物に変身をすれば、さらにその行動は完ぺきなものとなる。
実際リスなど、この日本列島ではありふれた野生動物なのだ。従って万が一見つかったとしても、誰からもほとんど気にはされないはず。しかしこれが人の姿であれば――特に黒衣を着ていた場合など――言い訳がまったくできない事態に陥るだろう。
なんと言っても夜に黒では、あまりにも尾行が明白すぎ。だから追跡をするにあたってリスへの変身を選択した可奈は、ときどきうぬぼれてはいるのだが、あたしって頭の回転さとても速いほうだにぃ――と自覚をしていた。
つまり可奈は、これでも立派――かつ完全なる完ぺき主義者であるのだ。少々自意識過剰気味ではあるけれど。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |