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『剣遊記番外編V』

第二章 深山の狼少女。

     (12)

(夜の森の光だにぃ……もしウィル・オー・ウィスプ{鬼火}みてえなおめってえ(長野弁で『めんどくさい』)もんだったら、とんで逃げるずらぁ☠)

 

 ウィル・オー・ウィスプとは、夜間の山中や墓場などで多く目撃される、妖しく光る浮遊物体である。

 

 ただしその正体は、いまだに不明。森の瘴気とか、さまよえる死者の霊魂だとかの説が、巷ではまことしやかにささやかれていた。

 

 だが、可奈の瞳の前で輝いている光は、噂で聞くウィル・オー・ウィスプとは、かなり様子が異なっていた。だいいち光が浮遊せず、一定の場所で固定をされていた。

 

 さらに大きな違い。ウィル・オー・ウィスプの光は青白いと言われているが、可奈の気づいた光はふつうによく見る、炎に近いオレンジ色をしていた。

 

(どっちさしたってこん山ん中で火さ灯すなんて……なんか理由が大有りずらねぇ……♠)

 

 現在、人目に気づかれにくいリスでいる自分を幸い。可奈は好奇心のおもむくまま、光の方向へと進路を変更した。

 

 そこで可奈は見た。

 

 小枝の上から見える眼下の光景は、まさにおぞましいのひと言で表現が可能な現場であった。

 

(これって……話には聞いた覚えがあるだにぃ……☠)


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