『剣遊記14』 第一章 私は見た。 (8) 同じころ、孝治は自分の部屋に戻っていた。このため帰ってきた荒生田と裕志には、まだ面会をしていなかった。
これはこれで、またラッキーと言うべきか。
それでも孝治は、疑問を胸に抱いていた。その理由は部屋の中に、もしかすると荒生田以上に大問題である二島が、なぜか滞在をしていることにあった。
孝治は昼食のあと正男と別れ、部屋に戻って休む気でいた。ところが正男との話を終わらせた二島が、孝治の部屋まで同行してきたのだ。
「なして二島さんが、おれん部屋まで来とるとですか?♨ なんやったらおれが店長か勝美さんに言うて、新しい部屋ば頼んでもよかっちゃのに♨」
孝治は一応親切のつもりで言ったのだが、これに対する二島の返事はいかにも軽い調子の、まさにどうでも良いような理由であった。
「まあまあ☺ こう見えましても実は私、あなた様向けの歌を作ったことでもおわかりでしょうが、あなたの存在そのものに大いなる興味と関心を抱いているしだいなんでございまするよ♡ 人類史上前例を聞いた記憶のない、男性から女性への性転換♀♂ 魚類の世界などではけっこうありふれている現象なんですが、こうして人間でその例を拝見するやなんて、こないなけったい極まる話♐ 一介の吟遊詩人の端くれといたしましては、一生に一度、いやたとえエルフの長寿を使い切ってでも、絶対に見逃しのかなわん冒険なんですわ☀ はははっ♪♪♪」
「あ、そ……☁」
孝治のドシラケ気分は、早くもピークとなった。また部屋には孝治の相方である、魔術師の浅生友美{あそう ともみ}もいっしょにいた。
「ふぅ〜ん☺ でも、よかやない♡ 吟遊詩人さんの話って、いっつもおもしろかことばっかやけんね♡」
友美は突然である吟遊詩人の来訪が、とてもうれしくて仕方のない感じでいた。それからもちろん、例の幽霊も(親父ギャグではない☓)。
『あたしかて聞きたかぁ〜〜っ☺ 陰からこっそりやけどね☻』
彼女の存在に気づいていない者は、現在部屋の中では二島だけ。その『例の幽霊』である曽根涼子{そね りょうこ}もふだんどおりで真っ裸のまま(?)、部屋にある木製の机に、お尻を付けて座っていた。
まあ涼子は実際に見えないから外すとして、友美から期待されたわけなので当然、話し出したら止まらない二島である。またもや文章では省くのだが、日本全国を旅して周る吟遊詩人の苦労話が、このあと孝治の部屋にて延々と続く成り行きになっていた。
もちろん彼は吟遊詩人なので、自慢であろう愛用の竪琴を、ポロンポロン♪と弾き語りしながらで。
そこへ外の廊下から、ドアをノックするコンコンとした音が聞こえてきた。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |