前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記14』

第一章  私は見た。

     (5)

「ぶぅわっくしょーーーーい! ちっくしょーーい!」

 

 黒いサングラス😎男の大クシャミが、道行く人々全員の注目を、一瞬にして集める結果となった。

 

「ふっ☻」

 

 だがこのサングラス男は、急に世間の(小さな)耳目を集めた事態を、むしろなんだか、満更でもない気分になって浸っていた。

 

「ふむふむ♡ 今のクシャミの感じからして、またどっかの女{スケ}が、こんオレの風の噂ば待っちょうばいねぇ♪♥」

 

 時空を超えて真実を申せば、確かに噂に関係した者は女性である。

 

 ただし、元男の。

 

 だけどこのサングラス男としては、今が可愛ければ過去がヤローであろうとも、まったく問題にしない性格なのだ(?)。

 

 まあ今のところは孝治も、それからこのサングラス男――これでも未来亭の戦士、荒生田和志{あろうだ かずし}も、なにも知らない幸せを楽しんでいれば良いだろう。

 

 そのサングラス戦士――荒生田には連れがいた。

 

「先輩、未来亭までもうすぐっちゅうのに、なんひとりでニヤニヤしよんですか? 横から見よったかて、なんか気色悪かですよ☢」

 

 頭から黒衣を着ている青年魔術師――牧山裕志{まきやま ひろし}が、周りの通行人たちの目を気にしながら、荒生田の左耳にそっとささやいた。

 

 現在ふたり(荒生田と裕志)は、北九州市の中心部、小倉地区へと向かう街道の途中にいた。ここからあと数キロほどで、未来亭に帰り着く路上であった。

 

 ふたりは今、波乱に満ちた冒険の最中――では全然なかった。ただ風の吹くまま気の向くまま、どこかでお宝の話でもあれば、速攻でそちらに足を向けるだけの日々が続いていた。

 

 結果、今回も収穫はまったくのゼロ。お足代が寂しくなったのをちょうど良い潮時にして、本拠地としている未来亭へと帰ってきたわけ。

 

 これでも戦士と魔術師か。

 

 とまあ、このような大人の事情(?)は脇に置いて、荒生田は裕志の言葉尻に、早速いつものパターンで噛み付いた。

 

「なんやてぇ〜〜、気色悪かっちぃ〜〜っ♨」

 

「あっ……いや……そのぉ☠」

 

 このとき裕志は内心で、『ちょっと言い過ぎたっちゃねぇ♋』と、とりあえず平和的に反省した。無論荒生田にかかったら、そのような反省心など、見事に歪曲されるのだが。

 

「てめえっ! 今頭ん中で『しまった☻』なんち思うたろうがあ! オレがおめえの頭の中なんち簡単に見通せるっちゅうこと、忘れんやなかぞぉ!」

 

「ちゃ、ちゃいますばぁーーい!」

 

 裕志は慌てて頭をブルブルと横に振ったが、しょせんは後の祭り。荒生田が一度決め付ければ最後、自分の曲解を絶対視する男だとわかっているので、裕志もこれ以上の弁解と言い訳はあきらめていた。

 

 もっとも人の頭の中身など、それこそテレパシーでも使えなければ絶対にわからないはず――なのに一方的な独裁的性格人間の手にかかれば、おのれの自分勝手な思い込みだけで、すべてが完全決定となる。

 

 証拠などまさにクソ喰らえなのだ。

 

 結論、決め付け人間に処方する薬はなし。馬鹿と同じで死んでも治らない。

 

「あひぃいいいいいいいいいっ!」

 

 けっきょく、哀れ裕志は荒生田の左魔手によるャラクティカ・グナムの洗礼を喰らい、空の彼方まで吹き飛ぶ顛末となったしだい。

 

 念のため、この描写は嘘だからね。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system