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『剣遊記14』

第一章  私は見た。

     (4)

 孝治としては、ほっとひと息の気持ちだった。

 

「正男んやつ、これからどげんかなっても知らんけね☠ せいぜい知らぬが仏でおるこっちゃね☢」

 

 この一方で、さすがにおしゃべりのプロ(?)である二島先生の前では遠慮していたようだ。けっこうおとなしい態度でいた弟子の真岐子が、今度はまるで、代理のようにして孝治に話しかけてきた。

 

「ねえねえ! 聞いて聞いて! 二島先生、景気がようないなんち謙遜ばしよんやけど、ほんまは今度東京と大阪で公演ば成功させて、けっこう金ば儲かったっち言いよんばい☆ こぎゃんなったらわたしかて、負けとう場合やなかばいねぇ わたしかて早よ新しか歌ば作詞作曲して、まずはこの未来亭にて御披露ばい✌ やけん孝治くんも、わたしの歌ば今度絶対聴いてやね♪ お願いやけん♫ それから……

 

「おっと、待ちんしゃい

 

 二島は論外として、真岐子の長いおしゃべりには、これでけっこう慣れている孝治である。すぐに右手の手の平を前に出し、永遠に続きそうな気配の話を中断させた。

 

「それよか厨房から由香たちが呼びようっちゃよ☝ 早よ戻らにゃ、また由香から怒られるっちゃよ♋☻」

 

「あっ、そやった!」

 

 真岐子が素直に長い蛇体をくねらせ、慌てて厨房へ駆け戻って――もとい胴体がヘビなので這い戻っていった。これにてとりあえずは、一難が去った――と言うところか。

 

「さてと♐」

 

 それから孝治はふと気になって、正男と二島のほうに顔を向けてみた。思ったとおりと言うべきか。正男が持ち込んだ話題(池田湖の謎のUMA――モンスター)に早くも乗り気となったらしい。二島の連続射撃的質問大攻勢が、ワーウルフである盗賊の目を白黒とさせていた。

 

 この間の経緯を文章で表わすのも面倒臭いので省くが、ただ矢継ぎ早となっている二島の舌禍で、正男がグロッキー寸前の状態なのが、孝治のときと違う状況と言えるかも。

 

「おれもそろそろ退散したほうがよかっちゃね☹」

 

 これ以上長い話に付き合う気はまったくないので、孝治は酒場から逃げるような気持ちで、テーブルから離れようとした。ついでにこの場とは、なんの関係もない思いにふけったりもする。

 

「こげな所に、あの変態サングラス😎がおらんで、ほんなこつラッキーっちゃね☻ それはそれで、なんかおもしろそうな気もするっちゃけど☻


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