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『剣遊記14』

第一章  私は見た。

     (13)

「たぶん……やろうけど、先輩、そんモンスターば捕まえて、また大当たりば狙ろうとんばい☂ こりゃ今回も、おれたち巻き込まれちまうっちゃねぇ☢」

 

 今さら言うまでもなく、この物語の黄金パターンである。孝治はこれまた、今の時点で話のオチを見たような気持ちになった。

 

「もう、こげんなったら逃げられんとやけ、メンバーば考えたらおれと友美と涼子と先輩と……裕志っちゅうとこの五人やね☠」

 

 孝治は執務室内をキョロキョロと見回し、それから自分自身を納得させた。

 

 しかし物語の展開とは、必ずや凡人の予想を遥かに超えるシロモノなのだ。

 

「うわたくしも行くがや! 今決めた! 絶対決めた! このIQ870なるうわたくしが決断したがんねぇ!」

 

「うわっち!」

 

 孝治は思わず、裏返った声を張り上げた。黒崎店長のお友達である日明氏が、いきなり勝手に参加を申し出たからだ。

 

 すぐに孝治は、どこからどのように見ても足手纏いであり、また当人自体が危なそうな感じである日明に、冒険への再考を押し求めた。

 

「ちょ、ちょっと! 日明さんがどげな職業か知らんとですけど、冒険っちほんなこつ命ば懸けるような荒行なんですっちゃよ! やけんおれたち本職の戦士かて危険がいっぱいっちゅうとに、素人のあんたば連れて行けるわけなかでしょうが!」

 

 それでも日明は、まったく動じなかった。いったいなにを根拠にしているものやら。意味不明の高笑いを披露するばかりでいた。

 

「ぬわっはははははっ♪♫♬ それならなんも心配要らんだぎゃあ☻☻ この世界での冒険の概況とやらは、すでに徹哉クンからの報告でだいたぁ聞いとるがねぇ☻☻ まあ、うわたくしのことは、なーんも心配せんでよろしいがんねぇ♠♣♥♦」

 

「徹哉くんの報告……? ああ、あの変な……やない! 店長のこれまたお知り合いっちゃね♐」

 

 一度冒険をともにした経験があるので、孝治の頭にもすぐに、あのとぼけた顔付きの少年が浮かんできた。今のところはまだ顔を見ていないが、先に裕志が教えてくれたので、彼が未来亭に来ている話だけは知っていた。

 

「あの徹哉っちゅうのと、あんたも関係あるっちゃね? 実際ありそうみたいっちゃけど?」

 

 この孝治の問いに、日明はやはり根拠不明の高笑いで応じてくれた。

 

「ぬはははははっ★☆★ そうがやか、チミも徹哉クンをどえりゃあ知っとうようだがねぇ☢☀ これは話が早いがねぇ✌ まあ、この前この世界に派遣したとき、なんかごとあって調子悪かったんだぎゃ、うわたくしが修理したんでもう大丈夫だがねぇ✌✌✌」

 

「え、ええ……まあ……☻」

 

(確かに知っとうっちゅうたら知っとうっちゃけどぉ……けっきょく何モンかは、いまだにわからんずくやもんねぇ♋ ……それに『しゅうり』ってなに?)

 

 今の思いは日明を前にして、顔にも口にも出さない孝治であった。

 

 それから孝治は、チラリと黒崎にも顔を向けてみた。冷静店長の彼は口の右端で、ニヤリとしているだけでいた。いったいどのような理由があるのかはわからないが、黒崎もこのような突飛極まる話の展開を、だいたいにおいて読んでいた感じがした。

 

 ついでに荒生田は――考えるだけ野暮というモノだろう。

 

「ゆおーーっし! このオレがリーダーばしよんやけ、客人にかすり傷ひとつ付けさせんけねぇ♧ まあ、大船に乗ったつもりで任せんしゃい

 

 などと大言壮語のあげく、自分の胸を右手でポンと叩いたりもする。

 

「ごほぉっ! げほぉっ!」

 

 力の抑制がまるでなっていないものだから、自分でむせ返ったりもする。

 

 孝治はこのような先輩を無視。改めて黒崎に尋ねてみた。

 

「ほ、ほんなこつよかっちゃですか? 冒険の素人ば、危険かもしれん旅に同行ばさせてから……♋」

 

「まあ、ええがや」

 

 黒崎はひとつ返事でOKを出した。この理由がまた奮っていた。

 

「日明さんは何事も研究熱心さが尋常ではないがね。こうなると僕にももう止められんがや」

 

「はあ、だいたいわかるような気がします……☁」

 

 孝治は深いため息を吐いた。とにかくこれにて、今回の冒険の気苦労が、ふだんより何百倍も増幅された格好となるに違いないからだ。

 

「なお、この冒険とやらにはうわたくしのアシスタントである徹哉クンもいざって行かすが、異議はにゃーがやか?」

 

 続く日明の妄言にも、孝治は軽くうなずくだけにしてやった。

 

「はあ……よかですよ☢」

 

 今さら徹哉の追加など、何百倍の気苦労が、何百一倍になるだけの話であろうから。


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