『剣遊記14』 第一章 私は見た。 (11) だけど、日明なる人物はこの際棚に上げたとしても、黒崎氏の古くからの友人であれば、すでにひとり、ここにもいる。
「やあ、黒崎はん、おひさしぶりでんなぁ☀」
孝治のうしろから、エルフの二島がしゃしゃり出た。
「やあ、これはこれは二島さん、来てくれたのなら、早く言ってほしかったがや」
すぐに黒崎がソファーから立ち上がり、二島と固い握手を交わした。
「おんや? この歌手みてぁあお方は、何モンだがね?」
さっそく日明氏とやらが、二島に興味丸出しの目を向けた。牛乳瓶の底みたいなメガネながら、その表情の変化は、端で見ても露骨であった。
「よう見ればなんだか、耳がえれぁあとんがって見えるんだがねぇ?」
「ご察しのとおりやで☀ 私はエルフでおまんのや✌」
すぐに二島が、日明に向けて一礼を返した。このときも日明のセリフは、ある意味において失礼の極みそのものなのだが、そこのところはまったく気にもしていないような二島の寛容ぶりとも言えた。
まあ、この珍しい取り合わせのふたり(二島と日明)プラス黒崎の歓談風景。これがしばらく、執務室内にて続く成り行きとなった。従ってなんだかおもしろくない者は、孝治と友美と涼子。それと三人を執務室に招いた裕志と、呼び寄せた張本人の荒生田であった。このサングラスの先輩は話が本当につまらなくなったようで、ソファーに背中で寝んかかり、両腕を組んだままウトウトと、半分居眠りのような状態になっていた。
ちなみに由香は、一階での仕事に戻っていた。
「で、おれたちなしてここに呼ばれたとやろっか? おればっか見せモンにしてくさぁ♨」
ブツクサとつぶやきながら、孝治はうしろに顔を向けた。裕志が申し訳なさそうに、ここでも両手のシワとシワを合わせていた。
「そうっちゃねぇ⛑ もうわたしら、帰ってええんとちゃう?」
「そうっちゃねぇ〜〜⛐」
友美の言葉で孝治は、部屋のドアに足を向ける気になった。
「あのメガネの先生みたいなん、おれにはもう興味なんかなかっちゅう様子っちゃよ☃ やきー、もう帰ろっか⛐」
「そ、それじゃ、ぼくが困るっちゃよ☢」
なんとなくシラけた気持ちである孝治の右手を、裕志が慌てて両手で握って引き寄せた。
「痛たたたっ! わ、わかったっちゃよ☠」
「しょんなかねぇ〜〜☻」
渋々の思いになって、孝治は部屋から出ようとしていた足を止めた。友美も孝治にそろえていた。
『あたしもなんか、期待外れの気がするっちゃけどねぇ〜〜☻』
やはり仏頂面となっている涼子が、ポツリとつぶやいたときだった。無論今の『つぶやき』が聞こえた者は、孝治と友美のふたりだけ。恒例の設定はとにかく、三人(黒崎、日明、二島)の会話が今も弾んでいるのだが、吟遊詩人の次のひと言が、この先の話の流れを、大いに変えてくれた。
「そない言いはったらここ九州に、なにやら正体の知れへんモンスターがおるそうでんなぁ✍」
いったいどのような流れでこの話題に行き着いたのか。そこはまあ都合の良い展開ということで。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |