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『剣遊記]』

第三章 渡る世間は敵ばかり。

     (9)

 桐都下の自白は、孝治たちもだいたい予想をしていたとおりの内容。彼は荒生田のセリフそのままに、有混事の命令で律子の動向を探り、逐一の報告を行なっていたのだ。

 

 つくづくわかりやすい話の展開である。これでは拷問の意味は――それこそ単なるうさ晴らしだったりして。

 

「どこまでも陰険な男っちゃねぇ、有混事って野郎はぁ☠ 律子ちゃんに脅迫状ば送らせたあともこいつに見張りばさせて、あげくは尾行までさせっちょったんやけ☠」

 

 自分たち自身の陰湿ないじめっぷりは棚の上。孝治は大いに憤慨しまくった。しかしここで、あとに残った問題がひとつ。

 

 桐都下の、これからの扱いである。

 

「で、こいつ、どげんします? いくら敵の間者やからっち言うても、衛兵隊が引き取ってくれるっち思えんとですけどぉ☁」

 

 両腕を組んだ格好で、孝治は荒生田に尋ねてみた。

 

「そうっちゃねぇ……☁」

 

 これに先輩戦士も、腕を組んで考えている素振り。それから鶴のひと声。

 

「人質にでもして、いっしょに連れて行こっかね⛴ ええ案内役ばい☆」

 

 ところがこの決定に、秀正が異を唱えた。

 

「ちょい待ってください✋ 確かにそれもよかっち思うっちゃけどぉ……それも問題ありきですよ☠」

 

「なんがね?」

 

 荒生田の三白眼が、秀正をギラリとにらんだ。これに秀正も怯まなかった。

 

 珍しく。

 

 ただし、さすがに汗がたらたらの状態。頭に巻いている白タオルをほどいて、一生懸命に顔の汗を拭いていた。

 

「だって、人通りの多か街道で、グルグル巻きに縛った男ば連れて歩けるもんじゃなかっちゃですよ☠ そげなこつしたら、こっちが街道の地元の衛兵隊から変に思われるやろうし……☠」

 

「それやったらどげんすっとや? じゃあ、ひと思いにここで殺っちまうんけ?」

 

 荒生田十八番{おはこ}の三白眼が、今度はギロリと桐都下をにらんだ。

 

「ひっ!」

 

 当然桐都下の顔面が、さらに極端に青ざめた。

 

「嘘ったい☠ ほんとに殺ったりせんけんね☠」

 

 荒生田がふふんと鼻を鳴らした。だけれど桐都下の青い顔は、もはや元の色には戻らなかった。

 

 まるでガ○ラス星人みたいに。


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