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『剣遊記]』

第三章 渡る世間は敵ばかり。

     (22)

 しかし孝治も愚痴るほどの気になりながら、次の律子のセリフがいよいよ、本当の『言いたか話』となってきた――と感じてきた。

 

「でも、さっきも言うたとばってん、わたしとおんなじように魔術で変身させられた孝治くんやったら、もしかしてわたしん気持ちがわかってくれるんやろうっか……って思うてやねぇ、こげんしていっしょに水浴びば誘ったんばい☻ ねえ、とにかく初めて変身したときって、いったいどげな気分やったと? そりゃライカンスロープん人たちみたいに、生まれつき変身タイプってのもあるとばってん、わたしと孝治くんの場合、魔術で強制的に変身させられたもんやけねぇ♥ まあ、わたしが見たところやったら孝治くんの場合、男から女に変身したんば、けっこう楽しゅうしとうみたいやけどねぇ♡」

 

「うわっち!」

 

『ぷっ! きゃははははははっ♡』

 

 律子が本当に言いたかった話とやらを聞いて、涼子が宙に浮いた格好のまま、腹をかかえて笑いだした。反対に孝治は、ようやく元に戻ったアゴを鳴らしてわめきまくった。

 

「おれはちいとも楽しんでなかっちゃけね! あれは今でも不幸な魔術事件やっち思うちょうとばい♨」

 

『自分でお化粧ばしたり、喫茶店でプリンアラモードば食べまくっちょうくせにぃ?』

 

「しゃあーーしぃーーったい♨」

 

 目の前に律子がいるのも構わず、孝治は涼子に向けて、今度は大きくがなり立てた。

 

「誰に怒っとうと?」

 

 薔薇の樹木が孝治への疑問を表現するかのように、先ほどとは違う感じで、ゆさゆさと左右に揺れた。

 

「やばっ☠」

 

 孝治は慌てて両手で口をふさいだ。それをごまかしてくれるつもりか、友美が再度の質問を、律子に訊いてくれた。

 

「で、で……けっきょく律子ちゃんが孝治に言いとうて、それから訊きたいことって、それやったと?」

 

「そげんことったい♡」

 

 律子は友美の問いに、実にすなおな態度を見せてくれた。なにしろ体中の葉っぱ(変な表現法)を先ほどと同じく二枚ずつ重ね合わせ、さらにはお辞儀のようにして頭(とにかく樹木の上の方)を下げるのだから。

 

「たった今言うたばっかしやけど、孝治くんもわたしとおんなじ仲間みたいなもんやけねぇ……言うてみれば『魔術被害者の会』ってとこやろうねぇ♡ やけん、こんことばヒデには内緒にしちょってや、お願い!」

 

 この仕草もまた、律子の愛嬌そのまんま。見ていてなんだか、漫画のような気分になるものだった。しかもその『会』の名前――いつかどこかでおれ自身が言うた覚えがあるっちゃねぇ――と、孝治は口に出さずに思った。それとは関係なしで、友美が訊いた。

 

「なして秀正くんには内緒っちゃね?」

 

 この根本的疑問である友美の再度の問いにも、薔薇の花の律子がその心情を表わしてか、緑の葉や茎を、このときもゆさゆさと上下左右に揺れさせた。

 

「だって……今んヒデがこんこつわかってしもうたら、有混事相手にどげな無茶ばやらかすか、えずいほどようわかるとやけ☠ たぶん頭に血ぃば昇りきってうろたえて、メチャクチャどったんばったんやるっち思うとばい……やけん正直に話すんは、もうちょい落ち着いてからにしたいと☂」

 

「ふぅ〜ん、そうけぇ……✍」

 

 そんな律子の深刻なのか、それとも真逆に楽天的なのか。とにかく複雑そうな思いを耳に入れ、孝治は次のような、実際にはつまらないような考えを、胸に抱き始めていた。

 

(こん前向きな明るさと能天気さ……律子ちゃんっちほんなこつ、昔っからこうやったっちゃねぇ〜〜✌)


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