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『剣遊記]』

第三章 渡る世間は敵ばかり。

     (16)

「あらぁ? おんしもなかなかやるずらねぇ♪」

 

「ま、まあね……☁」

 

 可奈が孝治を見つめる瞳を、なかば感心したモノへと変えた。このように気まぐれとも言えそうな可奈に応えつつ、孝治は両肩をはあはあとさせながら、足元に倒れている荒生田を見下ろした。

 

 口から泡を噴きつつも、黒のサングラス😎が相変わらずの無傷でいる、自分の先輩を。

 

「おれかて伊達に、先輩と長ごう付き合{お}うとうわけやなかっちゃよ☠ やるときはやるっちゃけね☃」

 

 その荒生田は、完全に昏倒の状態。急所への痛撃が、あまりにも見事に決まり過ぎていたようだ。

 

「でも、こいつにこんねんまくして、あとの仕返しはだいじょうずら?」

 

 可奈の疑問は、至極当然と言っても良いだろう。その問いにも孝治は、自信満々で答えてやった。

 

「それやったら大丈夫っちゃよ☆ 先輩はこれですっごう忘れっぽいっちゃけ、これがあしたん朝になったら、自分が酒に酔うて寝てしもうたとしか思わんとやけ♡ ほんなこつ恥ずかしいっちゃけど、これがいつものワンパターンなんよねぇ☠」

 

 孝治は苦笑気味にささやいてから、ふと周りを見回してみた。秀正と律子。友美と涼子も孝治の言葉に、ふんふんとうなずいていた。

 

「ほんと、ささらほうさら(長野弁でこれも『いい加減』)な人たちずらねぇ♪」

 

 可奈がポツリとつぶやいた。反対にすっかり安心気分となった孝治は友美を連れ(もち涼子もいっしょ)、勇んで小川まで出かけるようにした。

 

「じゃあ、おれもお言葉どおり、水浴びしてくるっちゃね♡ 危険人物も片付いたこっちゃし♡」

 

 そこへ急な申し出だった。

 

「待ちんしゃい! わたしもいっしょに行くばい!」

 

 律子のこの予想外なセリフは、山小屋にいる全員(気絶中の荒生田と、なぜか冷めている可奈。それに外にいる美香を除いて)を飛び上がらせる事態とするのに、真に充分過ぎる衝撃だった。


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