『剣遊記]』 第三章 渡る世間は敵ばかり。 (1) 「うわっち! ふたりも来るっちゃね?」
旅立ちの朝、何名かの遅刻者を除いて未来亭正面入り口前に集合した孝治、友美、涼子たち。ところが一応集結した冒険参加者の中に、予定にはなかった(あるいは聞いていなかった)顔ぶれがふたりもいることを知って、前記の三人はそろって息を飲み込んだ(幽霊も例外に非ず)。
その孝治たちを驚かせた参加者――律子は、自分の両腕に、まだ幼い祭子を抱いていた。おまけに律子は、なんがおかしいとね――とでも言わんばかり。逆に孝治に喰ってかかった。
「当ったり前ばい! わたしと祭子が現地まで行かんと、肝心の呪いば解けんでしょうが!」
「そ、そうっちゃねぇ……☁」
この剣幕で、孝治は一応納得した。考えてみれば、確かに至極当然な話。いくら呪いの大元を片付けたところで、肝心であるかけられた被害の当事者がその場にいなければ、実際になんの意味もない。
「実はおれかて行かせんつもりやったんやけどねぇ……☁」
秀正がすまなそうな顔になって、孝治に言い訳をした。
「やけど律子が言うとおりやねぇ、こればっかしは本人と祭子ば連れてかんといけんみたいやけぇ……負担ば増えるようちゃけど、まあよろしく頼むっちゃよ☂ もちろん足手纏いなんかさせんけね♠」
「もちろんばい! わたし絶対足手纏いなんかならんとやけ! 反対にバリみんなの役に立ってみせるとたい!」
「……そ、それもそうっちゃね……☃」
律子の剣幕にタジタジとなりながらも、孝治はなんだか、だんだんと昔をなつかしむような気になってきた。
「おれかてやねぇ……律子ちゃんが足手纏いやなんて、これっぽっちも思うちょらんけね☀」
このとき孝治は思い直した。律子が現役盗賊のころは、けっこう意気盛んな勇猛ぶりを発揮。結婚前の秀正や男時代の孝治の舌を、何度もグルグルと巻かせていた。
これは今でも、記憶にバリバリ鮮明。だから彼女本人だけなら、孝治も心配のタネはなにもなかった。
問題は、まだ赤ん坊である祭子ちゃんなのだ。
「この子だけは、おれたちが総がかりで死守してやらないけんちゃね♐ 今回の最優先課題やっち思うっちゃけ☀」
「すまん……☂」
改めて決意を固め直した孝治の言葉で、秀正と律子の夫婦がそろって、深々と頭を下げてくれた。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |