『剣遊記]』 第二章 薔薇と愛妻の秘密。 (22) 「まあ、荒生田くんばいねぇ☠ もっと上品にでけんとねぇ♨」
勝美が完全呆れ顔でつぶやくとおり、黒いサングラス😎の馬鹿野郎が、大事な話し中である執務室に乱入した。もちろん今さら、名前を詳しく紹介する必要もなし。
「うわっち! 荒生田先輩っ!」
「ゆおーーっし! 諸君! 元気でやっとるかにぃ☀☀」
まさに前触れも脈絡も必要性も、まったくの皆無。そんな変態戦士のご登場で、孝治は思わず裏返った驚き声を張り上げた。その一方で荒生田の狼藉など、今ではもはや慣れっこであろう。
「どぎゃーしたがやか、荒生田? 君は宝探しに出向いたんじゃなかったのか?」
黒崎がいつもの能面で尋ねると、サングラス戦士はその問いに、今度は苦虫を一億二千万匹噛み潰したような渋系の顔に変わって応じ返した。
「宝ん話は裕志がおらんけ、全部おじゃんになったっちゃね☠ そんで暇になったっちゃけ、秀正の仕事依頼、オレも請けることにするけんね☀」
(うわっち? これまた変な話の展開になったっちゃねぇ☂)
孝治はこのとき思った。荒生田が金絡み以外の話で動くなど、自分の記憶にある限りでは、これが初耳やなかろっか――と。
もちろん孝治たちの総支配人ともいえる黒崎は、荒生田の豹変など、一向に構わない感じでいた。
「そうか。それだったら仲間は多いほうがええから僕は構わないが……秀正、君の意見はどうだがや?」
「お、おれも……よかです……☁」
黒崎からふいに話を振られた秀正も、その表情は思いっきりの困惑模様になっていた。だけど、もともと荒生田の後輩連のひとりである秀正に、頑強に拒否権を発動させる気概など、求めるほうが無理であろう。
(おれにも絶対不可能なこと、秀正に無理強いしても無茶っちゅうもんばいねぇ☠)
これも孝治は、声には出さないようにしてつぶやいた。その秀正が、続いて孝治に向き直した。
「孝治はどげんするや?」
どうやら助けてを求めてのセリフらしい。
「…………☁」
孝治の本音ははっきりしていたが、思わず口をつぐむ行動をしでかした。無論孝治は『嫌ばい☠』と言いたかったのだが、今はそのような空気ではなかった。ところがその口を、やっとの思いで開こうとしたときだった(もちろん嫌々ながらの承諾)。当の荒生田から、いきなりうしろ羽交い絞めの洗礼を、見事に受ける始末となった。
「ゆおーーっし! 先輩のこんオレが助っ人しちゃるんやけ、これはええ話やろうが、孝治っ♡ なっ♡ なっ♡」
「うわっちぃーーっ!」
おまけに首まで絞められては、もはや断る術は完全になし。それにしても羽交い絞めしながら首までも絞める――常人には絶対に不可能な、超器用技とは言えないだろうか(描写すら不可能かも)。
「……は、はい☠ ひぇんぱい……よろひゅうお願いひたしましゅう……☠」
「ゆおーーっし! そんでこそオレの後輩ばい! 裕志にもよう言って聞かせておくっちゃぞぉ☀☀」
「ふぁ〜〜い……☂☃」
早くも自分の涙目を感じている孝治に、荒生田がぬけぬけとほざいてくれた。それも完ぺきに勘違い的勝ち誇りの顔をして。
「ゆおーーっし! これでみんな決まったっちゃねぇ☆☆☆」
いったい何に対して勝った気でいるのか。荒生田独特の、アホらしい勝利の仕方であった。
とにかくこれにて、旅の前途は早くも多難な模様。
このあと孝治の耳にもちょこっと聞こえたのだが、美香がこっそりと、親友である可奈の右耳に耳打ちをしていた。
「えっ? あの黒いメガネのごったく(長野弁で『悪ガキ』)みてえなあいつ……何モンずらか?ですってぇ?」
質問をされた可奈が高笑いを続けている荒生田をうしろから見つめ、美香に問いにそっと答えていた。
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