『剣遊記15』 第六章 我、真珠湾に上陸せり! (7) 「そこの皆はん方、ちぃとばかしお待ちになってもらえまへんやろっか♐」
だがなぜか、戦闘行動に出ようとした孝治たちよりも先に、美奈子がついに椅子から立ち上がった。そのため超マイクロビキニスタイルの全身が、連中の前で完全披露の格好。これでは必然的に、彼らからの拍手喝采と囃しの口笛を、ヒューヒューと誘発する事態となった。
「いよぉ! 姐ちゃん、ええカッコしとるのぉ!」
「大サービスしちゃげて、しぬるほどうれしかじゃあ♡♡♡」
それでも美奈子のド根性と芯の強さは、孝治の考えていた以上に強靭だった。
「このうちの体など、見られて減るもんやおましまへん☻ それより言い合いなんぞほんまにやめはって、このうちにおまいさんらの事情を聞かせてほしいんどすけどなぁ✍」
これに毒呂井のおっさんが、両目をニヤけさせたままで、応じ返してくれた。
「ほんに気のいびしい(広島弁で『怖い』)お嬢さんじゃのぉ♐ わしらはそのヒゲの兄さんだけに用があったんじゃが、こっからでべそなあんたらも、いっしょに来てもらわんといけんようになったのぉ☻☻」
「でべそ?」
孝治は一瞬だが、眉間にシワが寄る気持ちになった。そこへすかさず、友美が孝治の右の耳に、そっと耳打ちしてくれた。
「広島弁で『でべそ』っちゅうたら『出たがり』っちゅうことやけ、そげん気にせんでもよかっちゃよ☺ 見てん、美奈子さんかて意味ば知っとうみたいやけ、そげん怒っとう感じでもなかやろ☕」
「ほんなこつ⛑」
言われて孝治も、美奈子の表情を見て納得した。確かに彼女には、眉間にシワなど、一本も無し。もしもこれをセリフのとおりに受け取っていたら、美奈子は髪を天に向けて逆立て、思いっきりな怒り心頭を表現しているはずであるから。
それでも、もしかしたら一触即発になったかもしれないこの状況を、当の蟹礼座が右手を前に出して引き止めてくれた。それから孝治たちに向かって言った。
「待ちいや✋ こんならが用があるんはわしひとりじゃけえ、あんたらはもう去{い}にんちゃいのぉ⛐」
「それって、おれたちはもう帰れっちゅうことですけ?」
やや立腹した孝治は、思わず蟹礼座に喰ってかかった。だけど状況はもはや、全体的にその方向へと流れていた。
「そうじゃ⚠ あんたらはもう関係ないけんのぉ⛔ と言うわけじゃ♐ こっから先はわしひとりで、おめえらごりんどう(広島弁で『ダボハゼ』)に付き合{お}うてやるけんのぉ✊」
「ほな、行こうけぇ✈ お嬢さん方、縁があったらまた会おうかいのぉ☻☠」
一応蟹礼座が同行に同意をした格好なので、連中としては目的を果たしたようである。しかし代表者格の毒呂井を始め、連中はどことなく未練たらたらの顔付きを、孝治たちに見せ続けていた。
それも無理なかっちゃろうねぇ――と、孝治は思った。なにしろ彼らの目の前には、超極上ともいえる水着姿の女性たち(孝治含む。それと美奈子と友美)が、今もこうしてテラスの前で、ズラリと並び続けているのだから。
だけどもけっきょく、一味に連行される格好で、蟹礼座が孝治たちの瞳の前から消えていった。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |