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『剣遊記15』

第六章 我、真珠湾に上陸せり!

     (5)

「蟹礼座さん……ほんなこつどげんしたと?」

 

 友美も心配顔になって、座っていた椅子から立ち上がった。

 

「蟹礼座はん……?」

 

 その心配は、美奈子にも、きっちりと伝染していた。しかし当の蟹礼座本人は孝治たちに応えず、まったく別方向の一点を、先ほどから呆然の眼差しで見つめているだけだった。

 

『ったく、変な人っちゃねぇ?』

 

 今まで黙っていた涼子が右手を出し、蟹礼座の眼前でパタパタと上下に振ってみた。いわゆる誰もがよくやる、この人、気が確かなのかどうかを確かめる、恒例パターンの仕草である。もちろん幽霊がこれを行なったところで、それは究極の無意味――と言うものだろう。涼子だって、そこのところをわかっていて、単にからかっているだけなのだろうけど。

 

「いったいなんやろ?」

 

 とにかく孝治は、蟹礼座の目線の先に、自分も顔を向けてみた。

 

「うわっち?」

 

 そこには日本人の男性らしい一団がいた。

 

「まあ、ハワイに日本人なんち、別に珍しゅうもなかっちゃけどね☹☻」

 

 孝治は初め、その一団を、ふつうの観光旅行のおじさん連中だと考えた。だけどその考えは、即座に撤回。なぜだかはわからないが、その一団がわざわざ、孝治たちのいるテラスに近づいてきたからだ。

 

「なんね? あん人たちっち☁ あんな知り合いおらんけどねぇ?」

 

 近づいてから孝治は気がついたのだが、連中の人相は、いかにもワル丸出し風の面構えばかり。ふつうの日常生活を送っている身の上(?)としては、絶対にお付き合いをお断りしたい面々だ。

 

「うわっち! ヤな感じ☠」

 

 わかりやすく解説をすれば、要するに日本産のヤーサンと南国風海賊集団が合併をしたような感じ。その合併集団のひとり――小太りな体形の角刈り親父が、ドスの効いた声を、こちらにかけてきた。

 

「よう、ひさしぶりじゃのぉ☠☻」

 

 そいつは孝治たちには無視の態度で、明らかに蟹礼座だけに顔を向けていた。

 

「うわっち?」

 

 自分は相手にされていないと悟った孝治は、蟹礼座のほうに顔を向け直した。その蟹礼座は、やはり青い顔をしたまま、小太りの男に返事を戻していた。

 

「……ど、毒呂井{どくろい}……こげなー、ハワイくんだりまで来とったんけぇのぉ♋」


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