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『剣遊記15』

第六章 我、真珠湾に上陸せり!

     (4)

 さて、オアフ島への上陸を果たした孝治たち一行であった――が、ワイキキのビーチはどこもかしこもバカンス客たちで、超満員の有様。水浴び程度のつもりであっても、孝治たちに割り込む隙間は、一ミリたりとも残されてはいなかった。

 

 さすがは世界的に有名な、観光地の大御所ぶりである。

 

 仕方なく一行は、海辺近くにあるオープンカフェ(ハワイに海の家など、あるはずがなし)に立ち寄って、そこでジュースやフルーツなどをご賞味するほうに専念した。なお、千秋と千夏は砂浜で走り回っているけれどね。あっと秋恵もか。

 

 ところでここで、意外な才能を発揮した者あり。なんと蟹礼座が英語ペラペラであったのだ。そのため一行はなにも不自由することなく、ふつうに飲み食いや買い物ができる身分となったわけ。

 

「ほんなこつ助かったっちゃねぇ✌ 蟹礼座さんが英語ばしゃべることができたんで、おれたちもふつうにここで遊べるんやけねぇ

 

 トロピカルフルーツドリンクをストローですすりながら、孝治は蟹礼座に感謝の弁を述べた。

 

「ま、まあ……若けえときに、ちいたぁ英語の勉強したもんじゃけぇ、それが今になってもん凄い役に立ってのぉ☻」

 

「そ、そうですけぇ……☁」

 

 広島訛りで英語が得意――この二種がどうも似合わない感じがする気持ちは、孝治の偏見であろうか。もっとも、これが気になっている者は、今のところ孝治だけのようである。

 

「考えてみはったら、うちらも初めはグアム島を目指しとったんどすが、あそこもここハワイとおんなじ、アメリカ領英語圏どしたなぁ✍ いやはや通訳無しでよそはんの国への上陸など、今考えたかて無茶ブリと言うもんでおましたわぁ

 

 今や違和感皆無となった超マイクロビキニ姿の美奈子。オープンカフェのテラス(ピーチパラソルの下)で格好良くビーチ仕様の椅子に腰掛け、やはり孝治と同じトロピカルフルーツドリンクをストローで飲んでいた。

 

 その姿、まさに年の甲とでも言うべきか(ほんとに言ったら、あとが怖い)、常夏ハワイの風景に、物の見事マッチした風采である。

 

「ところで美奈子さん✎」

 

 ここで同席している友美が、急に美奈子への質問を始めた。

 

「わたしらなんか、それこそ無計画にハワイまで来たとですけど、このあとはもう帰るっちゅうことになりますねぇ それはええとして、いつまでハワイに滞在するとですか?

 

「そうどすなぁ

 

 美奈子がくわえていたストローを、口から離した。

 

「あ、おれもそれば訊きたかぁ☞☞」

 

 孝治もその話に関心を向けた。美奈子はドリンクのカップを円形テーブルに置いて、頭を右にひねっていた。

 

「らぶちゃんの貸し切り期限もそろそろのようやし、ハワイを満喫させてもろうたら、あとはほんまにもう、日本に帰るだけでんなぁ そうなりましたら蟹礼座はん、おまいはんはどないしまんのや?

 

 孝治と友美に答えるついでか、美奈子は蟹礼座に顔を向けた。ところが蟹礼座からの、即座な返答はなかった。

 

「………………」

 

「どげんしたと? 蟹礼座さん

 

 変に思って、孝治も蟹礼座に声をかけてみた。彼はどういうわけだか、物の見事に真っ青な顔となっていた。

 

 日焼け顔なのに顔面の縦線が、まったく隠せていないほどの状態で。


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