『剣遊記15』 第六章 我、真珠湾に上陸せり! (16) 「はあっ! はあっ! はあっ!」
まさに息をする間も惜しむかのごとくだった。美鬼が火炎弾の連続発射を繰り返した。しかもけっこう面倒な呪文が必要な攻撃魔術を連打するのだから、この魔術師、かなりの手練れと言っても差し支えなさそうだ。少なくとも先ほどの弟よりは。
「す、凄かぁ〜〜♋」
孝治はすなおに驚いてやった。ただしその驚きの対象は美鬼ではなく、超マイクロビキニ姿でいる美奈子に向けてのものである。なぜなら美奈子は美鬼の連続火炎弾にまったく動じる様子を見せず、そのことごとくを紙一重のわずかな差で、次々に右へ左へとかわしているからだ。
「おんどれ、なかなかやるやんけぇ!」
などと強がりを言っているのだが、孝治の瞳には、はっきりと見えていた。
「これ以上やったかて無益ばい✄ 河内のおっさんのほうが、なんかあせり丸出しやけ✊」
「そうっちゃね☞」
『あたしもそげん思う☛』
友美と涼子も、孝治のつぶやきにうなずいてくれた。まさに火炎弾をかわす美奈子は、大した労力も感じさせず、繰り返しの表現だが右に左にヒョイヒョイと身を翻{ひるがえ}すだけ。まるでカンガルーのような軽やかさを見せていた。反対に連射する側である美鬼とやらは、早くも口から荒い息を吐き、(暑けりゃ脱げばいいのに☠)黒衣の下に見える素顔には、汗が滝のごとくダラダラと流れ落ちていた。
「われ、なかなかやるやんけぇ……☻」
それでも強がりだけは三人前。美鬼が汗まみれの顔に、うっすらとした笑みを浮かべていた。ただし浮かんでいる場所は口の右端だけで、目には余裕というものがまったく映っていなかった。
とにかくこれに、美奈子が応えた。
「『やる』やなんて言いはったかて、このうちはせわしないこと、ひとつもやっておましまへんのやで☻☻ そない先を急ぎたい言いはるのやったら、ここらでケリを着けてあげましょっか♪✌」
「ケリやと?」
黒衣の下からかろうじて見える美鬼のおでこに、三本くらいのシワが寄った。この隙が、彼の命取りとなった。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |