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『剣遊記15』

第六章 我、真珠湾に上陸せり!

     (14)

「だ、駄目ですじゃ! あがいな女ども、なしてか強過ぎじゃあ!」

 

 手下からの緊急報告の威力は、主人とおぼしき人物さえも、心底から震え上がるほどのものだった。それもせっかく前の部屋から逃げ出し、新しい場所に移ったものの、ここまで震動がドカンドカンと伝わってくるのだから、これはもう、二重の威力と言えないだろうか。

 

「なしてじゃあーーっ!」

 

「ふっ☻」

 

 彼らの狼狽ぶりに対し、囚われてグルグル巻きにされている身である蟹礼座の、ある意味余裕しゃくしゃくな不敵の笑み。敵方の神経を逆撫でするのに、これ以上の効果はなかった。

 

「おどりゃーーっ! なんお調子い顔しとんのじゃあーーっ!」

 

 同席している手下のひとりが完ギレした。蟹礼座は不敵な笑みを不動のままにして言い返した。

 

「わしもここまで話が上手くいくとは思わなんじゃが、とにかくおんどれらもこれでお終いじゃ、っちゅうことよ☻ もうすぐあいつらがここに来るけぇ、そこでわしゃあ、ノンビリ高見の見物させてもらうけのぉ☻✌」

 

 そこへドッカァーーンと、部屋のドアが明らかに、外部からの攻撃で爆発した。正しくは外から受けた何らかの衝撃で、ドアが内側に吹き飛んできた感じ。

 

「ぐわほっ!」

 

「げほごほっ!」

 

「おおっ!?」

 

 この濛々たる煙と埃の中である。誰もが激しく咳き込んでいる現場に現われたる者は、蟹礼座の考えとは、大きくかけ離れていた。

 

「ん? おんしは誰じゃ?」

 

 その現われたる者は、蟹礼座の問いには答えなかった。それどころか、意味不明な高笑いを上げるだけ。

 

「くっふふふふふふふふっ☻☻☻」

 

 そいつは今殴り込み中の女性たち――孝治や美奈子たちではなく、黒衣を着た中年のおっさんであった。

 

 ひとり目は美奈子が片付けているので、こいつは差し詰め第二号ってところか。ちなみに第一号が美奈子によって簡単にKOされていることは、今この部屋にいる者たち全員(蟹礼座を含む)、まだ知らないままである。なにしろ屋敷内を監視しているはずの魔術アイテム――水晶球がポンコツで、その現場を寄りにも寄って映さなかったものだから。

 

 それはまた別の話にして、この新しい魔術師とやらも、一種の酔狂モノといえそうだ。なぜならハワイはかなり暑いはずなのに、魔術師たちの一部は好んで、自分を黒一色に染め固めている例が多いので。それを考えると、超マイクロビキニでいる美奈子のほうが、遥かにまともなTPOをしているのかもしれない。

 

 無論、魔術師のこだわりなど、今はそれについて論じている場合ではない。

 

「おおーーっ! 美鬼{びおに}かぁーーっ✌」

 

 とにかく主人は大喜びの顔になって、突然の乱入魔術師を、両手を大きく広げて歓迎した。建物の損害など、もはや気にもしていないようだ。

 

 これに魔術師――美鬼が、蟹礼座みたいな不敵気味の笑みで応えた。

 

「なんが起こったか知らへんのやが、屋敷がえらいことになっとうやんけ☠ となりゃいよいよ、わいに出番がきたようやなぁ✌」

 

 美鬼はなぜか、河内{かわち}系の関西弁でしゃべった。

 

「ほな、わいの出番がきたところで、報酬の上積みといこうやないけ☻✌」

 

 美鬼が早速右手を前に出して、伸ばした指を一本二本と数え始めた。でもってけっきょく、五本全部を広げて言った。

 

「そうやなぁ、ここはプラチナ貨、五十枚で手ぇ打ったろうやんけ✋✋✋

 

 この魔術師はどうも、銭{ぜに}に執着気味があるようだ。反対に主人のほうは、これがもう苦虫百万匹分、丸出しの顔となっていた。

 

「こいつ……性格がたいぎい(広島弁で『面倒臭い』)けのぉ💀


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