『剣遊記15』 第六章 我、真珠湾に上陸せり! (13) 孝治たちはやっとの思いで、別荘内の大広間らしい扉の前に到達した。
「やっぱ鍵がかかっとうっちゃよ!」
その大きなドアのノブを右手で握りながら、孝治は美奈子に顔を向けた。
「そこをおどきなはれ✊」
「うわっち!」
美奈子の気合いが入った大声で、孝治は慌てて、ドアから飛び離れた。その次の瞬間には、ドアは美奈子が差し出した右手の手の平から発射されたらしい衝撃波で、物の見事にドカンと吹き飛ばされていた。
「ぷはぁ〜〜、相変わらずっちゃけど、無茶ブリばっかするばいねぇ☢」
そんな濛々と煙と埃が舞う中だった。孝治はもはや慣れの境地で、たった今開放(?)されたばかりである室内に、顔を入れて覗き込んだ。
早い話が藻抜けの殻だった。
「なんちゅうことなかやね⛔ 部屋ば間違えたんとちゃう?」
孝治のやや嫌味混じりであるセリフに、美奈子はほぼノーリアクションに近い態度で応じてくれた。
「そない言うこともおますなぁ✄💀」
そこへまた、新たな用心棒の一団(十人くらい)が、ドドドッと駆け込んできたりする。しかし賢明なる読者諸君のワンパターンな予想どおり、彼らはたちまち美奈子の超マイクロビキニスタイル――ほとんど全裸に目も心も魂も奪われて、あっと言う間に木偶{でく}の棒の集まりと化してしまうのだ。
「うおーーっ! すっぽんぽんじゃあーーっ!」
「あほらし男衆どもでんなぁ☠ じっとしおらしゅうできまへんのかいな♐」
けっきょく美奈子の衝撃波魔術をもろに受け、次々と後方五十メートルの先まで吹き飛ばされていくばかり。
「美奈子さん、こげなことば予測して、あげな格好で通し続けてきたとやろっかねぇ?」
孝治の頭にポツリと湧いた憶測である。それはそうとして、孝治のあとに続いて部屋の中を探索していた友美が、一応それが終わったかのようにして、外に出てきた。右手になにか、布切れのような物を持って。
友美はその布切れがなにかなのを知っていた。
「これ……蟹礼座さんが持っとったハンカチばい☞ やっぱし蟹礼座さん、こん部屋に一時的におったみたいっちゃね♋」
そのハンカチ(黄色で無地)を、秋恵も一生懸命に見つめていた。
「それやったら早よう、蟹礼座さんがほんまに監禁ばされとうとこ見つけな、蟹礼座さんが殺されちゃうばい! こげんしとられんわ!」
そこへまた――と言うか。飽きもせず新手の用心棒集団(また十人くらい)が、やっぱりドカドカと走ってきた。
「ああん! もうせからしかぁ!」
ついに秋恵が逆ギレした。そのとたんに彼女はなんと! 唯一の着衣といえるビキニの水着(ピンク色)を、自分からポイポイと脱ぎ捨てた。
「うわっち! ま、まさか……秋恵ちゃん……あれやんの?」
もはや恒例の黄金パターン。彼女がいったいなにを考えているのかが簡単にわかり過ぎるばかりに、孝治はもう、その異常極まる行動を止めようとも思わなかった。つまり秋恵はいつもの得意技で体を丸め、瞬く間にいつものピンクボールに変形したのだ。
そのピンクボールが、自力で反動をつけてポーーンと大跳躍。ゴロゴロゴロと、用心棒部隊のド真ん中に、猛スピードで転がった。
まるでボウリング――いやいや、事実そのまんまであったりする。これにてたちまち、用心棒どもが再び木偶の棒――いやいやいやボウリングのピンと化したかのようにして、ドカーーンとピンクのボールに蹴散らかされた。都合良く、人数もちょうど十人(十本)であったし。
「やったでぇ! 秋恵ねーちゃん、ストライクやぁ!」
千秋が無邪気丸出しで右手を上に高く上げ、堂々のピースサイン✌を決めてくれた。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |