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『剣遊記15』

第六章 我、真珠湾に上陸せり!

     (10)

 ――と、言うわけでもないのだが、豪華別荘の正面入り口。いかにも貴族の邸宅のような門の前で、これまた異常なほどこの場に不似合いな海賊風連中が、いっちょ前に用心棒をしている現場だった。

 

「なんじゃ、ありゃ?」

 

 設定が面倒臭いので、登場人物はすべて、日本語でしゃべるものとする。とにかくいかつい顔付きで見張りを務めている三人の男の前に、この物語では完全に恒例のパターンとも言える、可愛らしい表情をした少女が現われた。

 

 今さら隠す必要もなし。当たり前ながら千夏である。

 

 見張りのひとりが、この場違いに登場した少女に向かって、一応優しげな声をかけてみた。

 

「……お嬢ちゃん……日本人かいのぉ?」

 

 日本語に訳すとなぜか、広島訛りになったりする。もしかして、世界的な流行なのだろうか。

 

 これにすぐ、少女――千夏が返事を戻す。ここ常夏のハワイの太陽に決して負けないような、超天真爛漫な笑顔でもって。

 

「はいですうぅぅぅ☀☀☀ 千夏ちゃん、ここにいるぅお客さんにぃ会いに来ましたんですうぅぅぅ♡♡♐」

 

「はあ?」

 

 これではさっぱり意味がわからない。いや、わからなくて当然。千夏も彼らに自分の真意を理解させる気など、髪の毛の先ほども絶無なのだから。

 

 それ以前に千夏自身も、自分の言動行動が、全然わかっていなかったりもする。

 

「っちゅうわけで、これからはおれたちの出番ちゃね✌」

 

「はあ?」

 

 続いて背後からいきなり聞こえた声にも、見張りどもは機敏で適切な対応を取れなかった。実際、訳がわからないままの顔をしてうしろに振り返ったとき、彼らは木の棒による洗礼を、ガスッ ボカッ バキッ と受けたのだ。

 

「一丁上がり……やなか、三丁上がりっちゃね✌✌」

 

 右手でピース✌サインを決めた孝治は、ニヤリ気分が最高潮。反対に三人の見張りは、本当になにがなんだかわからないであろうまま、地面に寝転がる有様となっていた。ちなみに木の棒――棍棒で三人をKOした者は孝治ひとりではなく、友美と秋恵もそれぞれ、背後からの奇襲攻撃をお見舞いしていた。

 

 相手が三人ならばこちらも三人という、簡単かつ単純極まる理由でもって。

 

「いっつもながら、男っち呆気ないもんちゃねぇ☠」

 

 友美の何気ないつぶやきに、孝治は元男の立場(?)であっても、特に反論する気にはならなかった。

 

「おれもそう思うっちゃよ☁ とにかくこげな、ヤバ系のヤローどもはねぇ……☻」

 

 ついでにやっぱし、ガタイのデカい男はロリコンの傾向が強いもんちゃねぇ――と、内心で情けなく考えながらで。つまり友美の言うとおりの『いつもの作戦』で、幼児丸出しである千夏を囮に出して、野郎どもの目を欺いてやったわけである。しかもこれが成功率ほぼ百パーセントなものだから、果たして(元男として)喜んで良いものやら。

 

 そこへ堂々の面構え――ドヤ顔で、主役である美奈子が現われる。

 

「どうやら片付きはったようでおますなぁ 今のところチンピラの皆はんだけのようで、うちの商売敵{がたき}のような魔術師はんは、どうやらおらへんようどすな

 

 その自分の言葉に反して同業者(魔術師)をまだ警戒してか、美奈子は周辺をキョロキョロと見回していた。でもやっぱりこれが、超マイクロビキニスタイルのまんまなんよねぇ――と、孝治は苦笑混じりのため息を吐いた。


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