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『剣遊記15』

第六章 我、真珠湾に上陸せり!

     (11)

「おっ? なんやなんや、おんどれら?」

 

「ぎゃん!」

 

「ぐわらばっ!」

 

 出てくる出てくる用心棒どもを、美奈子と友美は衝撃魔術を使って、孝治は棍棒でもって、片っ端からバシバシと蹴散らしてやった。

 

 敵もまさか、女ばかりの殴り込み部隊が突然押し掛けてくる事態など、それこそ夢にも考えていなかっただろう。従って当然ながら、このような奇襲攻撃に、成す術などまったく無しの体たらく。

 

「おまっとーさん、と言いたいとこでおますんやけど、ちいとも手ごたえあらへん、ごんたもんばかりでおますなぁ☻ なんや、うちが一番心配しとった、敵方の魔術師はんはやっぱ、ほんまにおらんようどすし

 

 たった今も大の男を十人ばかり吹き飛ばした美奈子の、実に贅沢極まるつぶやきであった。

 

「わしがその敵方の魔術師じゃ♨ わしになんか用かいのぉ♨☠」

 

 それでも求めれば出てくるもので、通路の奥から黒衣を頭からかぶった中年男が現われた。それも男のこめかみには血管が浮き出ており、見た目にも相当な感じで、はらわたが煮えくり返っている模様。

 

「美奈子さん、待望の好敵手が出よったばい☠☻」

 

 なんとなくこの先の展開が読めるのだが、孝治は美奈子の背中に隠れ(情けない☢)、ついでに緊張を煽ってやった。

 

「そのようでんなぁ

 

 (ほぼ全裸でいる)美奈子は完全に余裕の構えでいた。

 

 現われた中年魔術師は、早速攻撃魔術のポーズで、両手を前に差し出した。

 

「うぬらが何モンかは知らんが、これ以上お調子い真似したら、ただじゃ済まさんけのぉ♨♨」

 

 それから手の平をこちらに向けたので、定番の『火炎弾』を発射するつもりのようだ。

 

「ほな、こちらからも行きまっせぇーーっ!」

 

 もちろん美奈子も、対抗して同じようなポーズをとった。しかもこちらのほうが断然に速く、両手の先からスイカ大の火炎弾を発射させた。

 

「ぬ、ぬわにぃーーっ!」

 

 中年のほうは、まだ魔術の呪文を始めたばかりのようだった。当然ながら術の構えのままでは機敏な対応ができず、ドッカァーーンと、美奈子の火炎弾をまともに喰らう結果となったしだい。

 

「ぷふぁ……

 

 爆発の跡には、ひとりリフで髪をコゲコゲの天然パーマにしている中年魔術師の、哀れ極まる姿だけが残されていた。

 

 もちろん口から黒煙を吐きながらで。

 

「やったっちゃね、美奈子さん✌✌ あんたやっぱ、日本一ばい!☺☺

 

 自分がなにも協力できなかった身の上は承知だが、孝治は手放しで、美奈子を絶賛してやった。

 

 その美奈子の、いまだに続いている贅沢極まるつぶやきが、孝治の耳に入ってきた。

 

「このうちをあじもしゃりもないくらいあじない思いをさせはるやなんて、ちいともおもろうありまへんなぁ☹ 少しはこのうちを手こずらせてほしものどすえ

 

「まあ、同意するっちゃね☻」

 

 孝治は改めて美奈子の実力に戦慄するものの、今はおだて一色に限ると、心の中で決めていた。それよりも友美のほうが、孝治よりもあせりの気持ちを丸出しにしていた。

 

「そげんことより蟹礼座さんば捜さんと、早よせなエラいことになるんやない!」

 

「おっと、そうやった!」

 

 孝治も我に返った。友美の言うとおり、なんと言っても現在のところ、蟹礼座氏が人質の状態となっているのだ(いつの間にか、そうなってる)。ここは奇襲で敵を混乱させている間に、どうにかして助け出さないといけない局面でもあった。だが肝心の監禁地点である大広間らしき場所だが、別荘内がけっこう広くて、なかなか探し出せない状況にもなっていた。ところが美奈子ときたら――である。

 

「まっ、なんとかなりますやろなぁ

 

 なぜか楽天的な余裕っぷりを、場違いなほど周囲に撒き散らしていた。


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