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『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (7)

 だが、孝治はどうしても、疑心暗鬼を確信へと変えられなかった。そこで孝治は、朽網が持っている水晶について、うしろの友美に、そっと訊いてみた。

 

「あれって一種の水晶占いなんやろうけど、ほんなこつ間違いなかっちゃろっか? なんか今ひとつ信用できん気持ちなんやけどぉ……☁」

 

 答えてくれる友美も、半信半疑気味の顔をしていた。

 

「わたしもようわからんっちゃねぇ……あれより小さい水晶ならわたしかて持っとうとやけど、性能にそれぞれ差があるもんやけねぇ……☁」

 

「性能けぇ……☁」

 

 友美の返答で孝治は、小さくため息を吐いた。けっきょく現時点において、明確な真相は、まだまだ不明のままと言えそうだ。

 

 その不明ついでに、孝治は腹を決めた。

 

「もう! こげんなったら依頼人ば守る、戦士の職務ば果たすしかなか! 生きて帰れりゃめっけもんなんやけ!」

 

 すでに気持ちの半分――いや、四分の三がヤケクソ。孝治は腹をくくるのといっしょに覚悟も決め直し、腰の鞘から再び剣を引き抜いた。

 

 すると合馬も、剣を抜いた孝治を見て、むしろうれしそうに口の端をゆがませた。

 

「ほう♡ どうやらやる気になったみてえだな☢ 俺はもともとから女にも容赦しねえ主義だが、それが元は男となったら、これは初めっから遠慮もクソもねえってもんだぜ♥」

 

 まさに凄味とドスを効かせたセリフであった。孝治は背中にゾクゾクッと、ブリザードの舞いをビンビンに感じた。

 

(こいつ……とっくに殺る気やったみたい☢ おれもしかして、ちょっと早まったこつ、したかもしれんばいねぇ……☠)

 

 気分は早くも、ヘビににらまれたカエルの心境。それでも孝治はしっかりと、逆に合馬をにらみ返してやった。対抗意識と同時に、相手の一瞬の隙も見逃すまい――の気持ちも込めて。

 

 結論――合馬に隙はなかった。それこそ今ヘタに突っ込めば、簡単に返り討ちの有様となるだけであろう。

 

(おれってやっぱ……早まったみたいっちゃねぇ……☠)

 

 今さら内心で後悔しても遅い孝治であった。


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