『剣遊記T』 第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜 (5) 孝治は怯まず、両手で剣を上段に大きく持ち上げ、堂々と構える体勢を取った。
それから渾身の力を込め、一気に剣を振り下ろす!
狙いはただ一点!
「とぅああああああああああああああっ!」
飛びかかってくるウォームの頭部と剣の刃先が、見事にガツンと激突! 剣がアゴを叩き割る!
グッシャアーーッと、肉の潰れるにぶい音が響き、ウォームの体液が周辺にばら撒かれた。
ウォームの唯一と言っても良い弱点。それは最大の武器であるはずの、強大なアゴなのだ。弾力性に優れた体の表面で、そこだけが叩けば壊れる、ただ一箇所のガラス細工と言えるわけ。
孝治はそれを、戦士の学校で繰り返し教えられていた。
ふつうの授業は、あまり真面目とは言えなかった。だけど怪物関係の勉強だけは、大いに興味をそそられたものだった。
「やったぁーーっ!」
『カッコよかぁーーっ!』
友美と涼子が、声をそろえて手放しでの大喝采👏をしてくれた。お互いに手と手を取り合えないのが、とても残念そうではあるけれど。
そんなふたりを横目にしながら、孝治は荒い息を吐き、地面にガックリと膝{ひざ}を落とした。
孝治にとって、まさに生死を賭けた戦いだった。だが、あとに残った余韻は、たまらないほどの疲労感でしかなかった。
一方で、アゴを割られたウォームのほうは、もがきのた打ちながらも、まだ生きていた。それがやがて、這う這うの体で地面を這いずり、見た目にわかる逃走へと移り始めた。
狂暴な怪物を、手負いで逃そうとしているわけである。しかし今の孝治には、もうウォームを追って、とどめを刺す気力はなかった。ウォームの体液をバッと振り掃ってから、剣も早々で、鞘に収めたほどなので。
「せいぜい……火山から遠く逃げるんやな☠」
そんな心境である孝治の耳に、いつもの華麗なる(?)京都弁が響いてきた。
「孝治はん……また怪物を退治してもろうて、ほんまにおおきにどすえ……けどぉ、話はまだ、ちぃとも済んでおりまへんのや☠」
「なんねぇ、まだ済んでまへんって♨」
孝治は美奈子の言い草に、大きな不満を感じた。
ムカデ退治のときには、火炎弾を連射した美奈子であった。それが今回のウォーム戦の場合、指一本も手出しをしようとはしていないのだ。
「ムカデは平気なんやけど、イモ虫はやおないっち言うんやないやろうねぇ?」
つまらない疑問はさて置き、孝治は美奈子に顔を向けた。
「うわっち!」
とたんに孝治は、思わず上擦った裏声を上げた。 (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |