前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (3)

 さらに美奈子の体がバネ仕掛けのようにうしろへと弾け、もろに孝治とぶつかった。

 

「うわっち! うわっち!」

 

 おかげで孝治は、地面の上で仰向けの格好。そこへ美奈子が、腹の上にドサッと乗っかった。

 

「ぶわっぢ! 重だがぁーーっ!」

 

 孝治はレディーを相手にして、決して言ってはいけない叫びを上げた。しかし幸い、美奈子は文句を垂れなかった。なぜなら、それに勝る事態が起きていたからだ。

 

 美奈子が孝治の腹の上に乗ったまま、今度は具体的な大声を上げた。

 

「こ、孝治はん! 剣を抜いてくださいませ! 怪物が祠から出ましたえーーっ!」

 

 もっともその前に、美奈子がどいてくれなければ、話は進まない。

 

「美奈子ざん、苦じがぁ〜〜っ!」

 

「あっ、失礼どした⛐⛑」

 

 美奈子が慌てて、孝治の上から降りてくれた。少々赤い顔になって。しかし美奈子の全体重をもろに受け、孝治は一時的な呼吸困難に陥っていた。

 

「ぷはぁ〜〜、酸素ぉ〜〜☠」

 

 それでも新たなる怪物の出現らしい。しかも美奈子とて、心の準備どころではなかったようだ。魔術を駆使する余裕もなく、孝治に助けを求めたほどであるから。

 

「い、い、いったい、どげな怪物が出たとね!」

 

 とにかく呼吸を整え、孝治は体勢を立て直し、腰の鞘から剣を引き抜いた。だが怪物との初顔合わせは、剣を抜くよりも早かった。祠の観音扉を内側からドカーンと弾き飛ばし、奇怪な土色をした長いモノが、その身をあらわにしたからだ。

 

「うわっち! これってウォーム{妖虫}ばぁーーい!」

 

 今度は孝治の悲鳴の番だった。その勢いで、孝治は今までの最高記録――身長の八倍近くまで飛び上がった。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system