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『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (2)

「ここらでちょっと、ひと休みしようや☕」

 

 山道を登る途中、孝治たちは休憩で、ある場所に立ち寄った。

 

 そこは、えびの高原の中腹にポツンと建つ、小さな社{やしろ}だった。

 

 ただ、管理を担う僧侶たちは、噴火に備えてすでに避難を完了させたようである。社は完全に、無人の状態で放置されていた。

 

 それでも立ち寄ったついで。孝治は警戒と探索のつもりで、その周辺を歩いてみた。すると社の裏側に、観音開きの{ほこら}らしき社殿を見つけた。

 

 孝治はすぐに、友美や美奈子たちを呼んだ。

 

「おーーい! こっちに古い祠があるっちゃよぉ!」

 

「それって、ほんとぉ?」

 

「それはいと珍しいことどすなぁ♥」

 

 涼子も身(幽体)を乗り出して、祠を隅から隅まで眺め回した。

 

『これってまた、ずいぶん汚れた祠やねぇ♠』

 

 感想は平凡だった。また、(涼子の存在を知らないままいっしょに)やはり祠を眺め回していた千秋も、見た目そのままの感想をつぶやいた。

 

「なんや、ずいぶんとまあ汚れた祠やなぁ☠」

 

 偶然ではあろうけど、涼子のセリフと見事に一致していた。

 

「これ、千秋、そない殺生なこと言うてはあきまへんのやで♠ 祠は神代{かみよ}の昔から、妾{わらわ}たち旅の衆を陰から見守ってくれはる、ありがたい神様が祀{まつ}られてはる場所なんでおます☺ そやさかい、ここはお礼のひとつでも申し上げておかな、とてもかなんバチが当たるというものどすえ♐」

 

「はいな、師匠☁」

 

 美奈子からの説教を受け、千秋がしゅんと頭を垂れた。

 

(ほんなこつ美奈子さんの前やったら、借りてきた猫ちゃんやねぇ♠)

 

 声には出さないようにして、孝治は小さくささやいた。それから一応の小言が終わったらしい。美奈子が観音開きの扉に両手を伸ばしていた。

 

「美奈子さん、なんしよんですか?」

 

 友美が尋ねると、美奈子は微笑みながらで答えた。

 

「いえ、中の御本尊をご拝見させてもらうだけでおます♡ ここが埃だらけやったら、大変気の毒でおますさかいに♥」

 

 このとき涼子が、こっそりと孝治に耳打ちで話しかけてきた。

 

『美奈子さん、あげん言いよっとやけど、ほんとは祠ん中の宝が目当てとちゃうやろっか?』

 

「まさかねぇ〜〜☃」

 

 孝治はこれに、苦笑気分で応じてやった。だけどそれも有りかも――の気持ちも、確かにあった。

 

(やっぱ……もしかして……っち思うてしまうっちゃねぇ☻ なんちゅうたかて、美奈子さんの場合は……やけ☁☂)

 

 再び孝治の胸に、もはや定番となっている疑心暗鬼が、小さくめばえだした。

 

そこへまただった。これも恒例となっている、突然の事態が発生した。

 

「きゃあああああああああっ!」

 

「うわっち!」

 

 孝治は大きく度肝を抜かれた。疑心暗鬼の対象である当の美奈子が急に、甲高い悲鳴を上げたのだ。


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