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『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (1)

 周辺に漂う硫黄の臭気が、その濃度を刻一刻と増していく。

 

 ここ、南九州屈指の火山地帯――霧島山系は、巷間{こうかん}での予測どおり、近い将来での噴火が警告されていた。

 

 この非常事態により、山中を横断する街道は、すべて完全に閉鎖。これにより旅人たちは、霧島を大きく迂回。遠回りで鹿児島市に向かうしか道がなかった。

 

 ところがその警告には従わず、孝治たち一行は霧島を進んでいた。

 

 旅の依頼人である美奈子から押し切られた格好で、孝治や友美は霧島への道を強行させられているのだ。

 

 先行はいつものとおり、美奈子と千秋の師弟コンビ。孝治は友美、涼子と並んで、ふたりのあとに続いていた。

 

 念のため、駆けつけ応援者へ霧島を通るようにしたとの伝言も、通りがかりの宿屋やお店などで頼み済みにしていた。ある意味合馬に知られる危険もできるわけなのだが。

 

「く、臭かぁ〜〜っ

 

 山道を登りながら、孝治はたまらず、右手で鼻をつまんだ。そのついでに左右を見回せば、友美と涼子も同じ有様。硫黄の臭気が、辺り一面に充満しているのだ。

 

(幽霊でも嗅覚があるっちゃねぇ〜〜♥)

 

 今さら知ったところでしょーもない無駄知識を、孝治はしょーもなしで頭に入れた。ところが孝治たちを霧島へと導いた張本人たち――美奈子と千秋は、なぜか平然とした顔付き。また、ユニコーンとの合いの子である角付きロバ――トラも、体質がやはり特別製であるらしい。ふだんの歩みで、千秋の手綱に牽かれていた。

 

 孝治は半分ヤケクソ気味になって、小さく愚痴をつぶやいた。

 

「だいたいヘビっち、硫黄の臭いばすっごう嫌うもんやろ☠ それがなして美奈子さん、あげな平気な顔でいられるっちゃろっかねぇ?」

 

 愚痴に付き合ってくれる殊勝なパートナーは、これもいつものごとく、友美であった。

 

「そげん言うたかて、美奈子さんは別にワースネーク{蛇人間}やのうて、正真正銘の人間やろうも☛ やけんコブラに変身するんは魔術なんやけ、硫黄なんか関係なかっちゃよ☠」

 

 ついでに涼子も口をはさんでくれた。

 

『やけど、これだけ周りが硫黄の臭いだらけやったら、もう人間もヘビも関係なかっち、気もするっちゃけどねぇ☠』

 

「……ごもっともで……☁」

 

 これには噛みつく気にもならず、孝治はコクリとうなずいた。


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