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『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (18)

 パキンと乾いた音がした。剣が中心部から見事、綺麗なほど上下ふたつに割れたのだ。

 

「うわっち! や、やったぁ……☀」

 

 孝治は無意識的に、かすれた声を上げた。反対に武器を無にされたためか、合馬がいかにも『無念です😭』の顔丸出しで、地面にぐぬぬっと突っ伏していた。

 

「くっ、くそぉ……☂」

 

「これで勝負は着いたったい☺ 孝治、もうよか✋ ようやった♢✌」

 

「……は、はい、先輩♥」

 

 帆柱からのお誉めの言葉で、孝治はようやく、落ち着いた気持ちになった。おまけに嵐の前の静けさであろうか、大地の揺れが、先ほどよりも小さくなっていた。

 

 そんなときに、やっぱりの恒例であった。

 

『みんな、なんボヤボヤしよっとね! 今噴火口ば見て来たとやけど、熔岩がバンバン噴き出しよったんやけね!』

 

 いつの間にか姿を消していた涼子が、霧島の山頂方向から、慌てた感じで飛んできた。

 

 どうやら彼女は、大事なときにこの場を離れ、山頂を偵察していたらしかった。

 

「うわっち! それってほんなこつ!」

 

 孝治は一気に、顔面青ざめの気持ちとなった。事態が急展開の坂道を、一気にゴロゴロと転がり始めたのだ。

 

「よっしゃ! いよいよここも限界やな! 全員、俺に続くったぁーーい!」

 

 涼子の声が聞こえたはずもないだろうけど、帆柱も初めっからわかっていたのだ。もはやこの場の全員、元敵だった騎士たちも含めて、その声に無条件で従った。

 

 すでに異議を唱えるどころではなし。ケガをしている者は五体満足者が、ふたり掛かりの肩でしっかりと支えていた。

 

 こうなればもちろん、合馬と朽網も――と言いたいが、こちらは少々モタついた。

 

「ちゅ、中隊長殿ぉ! 早くこっから逃げましょう! もうこの辺はお終いですよぉ!」

 

 朽網はマジで必死だった。ところが合馬は、地面に座り込んだままでいた。

 

「お、俺は……もういい⛳ 任務に失敗して、おめおめ生きてられるかってんだ……☃」

 

 そのときまたもやの突然。合馬の体がふわりと、いきなり宙に浮かび上がった。

 

「わわわあーーっ!」

 

 誰もが初めて耳にする、合馬が発する本物の裏声だった。そこへまた、凛とした声が辺りに響き渡った。

 

「寝言はここから逃げたあとにしておくれでやす! 面倒やさかい、うちが皆はんを遠くにお連れいたしますえぇ!」

 

 合馬を浮遊させた魔術は、美奈子が放った技であった。しかも浮かべている者は、合馬ひとりではなかった。

 

「うわっち! うわっち!」

 

 孝治を始め、朽網や騎士たち。もちろん友美と千秋。角付きロバ――トラもいっしょであった。

 

「ほほう、これはおもしろかっちゃねぇ♡ わははははっ!」

 

 この場にいる者たちの中で、体重が一番重いに違いない帆柱も、余裕の大笑いで空中浮遊を楽しんでいた。

 

「それでは皆さん! 瞬間移動で安全な所に参りますえーー!」

 

「それってどこねぇーーっ!」

 

 孝治の悲鳴的質問に、美奈子は答えてくれなかった。いや、実際に答える暇などなかったのだ。その理由は周辺にバラバラと、大小の噴石が飛んできたからだ。

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 やがて半分――いや全面的パニックになっている孝治の視界から、霧島山一帯の風景が、一瞬にしてパッと消えた。

 

 それから次に気がつけば、なぜか暗黒の空間へと導かれていた。


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