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『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (16)

「な、ぬぁんだとぉーーっ!」

 

 合馬の二度目の驚き声であった。彼はどうやら本気で、孝治たちの仲間入りを期待していたようだ。そんな黒い騎士が仰天したのを見て、孝治は内心で、『してやったり✌』の気分となった。

 

「そ、その理由はなんだぁーーっ! きちんと二十字以内で答えやがれぇーーっ!」

 

 さらに吠える合馬に、孝治はきちんと答えてやった。本来答える義務など、どこにもないのだけれど。ついでに二十字以内は無視。

 

「今言うたとおりったい! 美奈子さんはおれの大事な依頼人やけ☀ そん依頼人から雇われちょるおれが依頼人ば守るんは、当たり前んことやろうが!」

 

 言うだけ言いきったあと、少々興奮の思いで、孝治はうしろに振り返った。帆柱がコクリと相槌を打ってくれた。

 

「う〜む、多少無理はあるっちゃけど、話の筋は、まあ通っとる✍ これでよかっちゃろ✌」

 

 いわゆる追認であろうか。とにかく先輩のお墨付きで、孝治はますます自信が深まる思いになった。

 

 それから孝治はその勢いを維持したまま、合馬堂々とに言葉を返してやった。

 

「そ、それに東京の皇室がどげなもんか知らんとやけど、自分以外は馬鹿っち言いたげな『俺たち偉いんだ病』みたいな発想が、いっちゃん腹立つと! 自分中心主義もたいがいにせえーーっちゅうんやぁーーっ!」

 

「き、貴様ぁーーっ!」

 

 合馬が両目をつり上げ、剣先を孝治に向けた。さらに、もはや剣先からいつの間にか解放していた美奈子を(解放というより、もうどうでも良くなっていたのかも♋)、非道にも右手で突き飛ばす所業にでた。

 

「きゃあーーっ!」

 

 美奈子もなさか、これほどの乱暴をされるとは思っていなかったのだろうか。自由の身になっても合馬のそばにいたことが、彼女の油断であったようだ。

 

とにかく無慈悲な扱いを受けた美奈子は悲鳴を上げ、地面にをついて倒れ込んだ。これに千秋が、激しく憤慨した。

 

「こらぁ! 師匠になにすんねんなぁ! 師匠はか弱いレディーなんやでぇ! あんたにゃ優しさっちゅうのがないんかぁ!」

 

 まさにそのとおりで、婦女子に対する乱暴狼藉。騎士の風上にも置けない暴挙である。これにて孝治も、完全なる本気モードに突入した。

 

「こんの野郎ぉーーっ! 千秋ちゃんが言うとおり、もっと女ん人ば大事にせんねぇーーっ!」

 

しかし合馬の顔は、このときむしろ、余裕の塊となっていた。

 

「さっきも言ったが、俺はもともとから、女でも容赦しねえ主義だからな✋ いや、おめえの場合は元は男なんだからよぉ、おめえには主義も関係ねえか☠」

 

 などと口の端をニヤけさせながら、合馬がスラリと大型剣を振った。

 

 孝治はその一閃を間一髪! 首の皮一枚で、なんとかかわす奇跡に成功した。

 

「うわっち!」

 

 だが、今の一撃はまだまだ、合馬のお遊びの範疇だった。本当ならば、これでケリが着いても良さそうな局面であったから。

 

「お楽しみが簡単に終わっちまったら、それこそおもしろくもなんともねえからな☠」

 

「しゃあしぃったい!」

 

 孝治は頭の中がくやしい気持ちでいっぱいとなり、思わず歯噛みを繰り返した。そんな孝治のうしろから、帆柱の叱咤が飛んできた。

 

「孝治っ! やつの挑発に乗るんやなか! 自分が今、なにをいっちゃん守らんといけんか、それだけを考えるったい!」

 

「そ、そげんこつぅ……急に言われたかてぇ……☁」

 

 いくら先輩からの有り難いご指導でも、今の孝治に応じられる余裕はなかった。とにかく孝治に応戦の構えさえ取らせず、合馬がめったやたらと大型剣を打ち込んでくるのだ。孝治はそれを自分の中型剣で、なんとかカチンカチンと避けるのが精いっぱいの有様だった。

 

「先輩っ! なんとかならんとですか!」

 

 戦いをジッと見ている友美が、ついに我慢の限界に達したらしい。悲痛極まる声を張り上げた。

 

「あげん乱戦になったら、わたしかて魔術で援護ができませんけ!」

 

「まあ、待つっちゃ♠」

 

 それでも帆柱は、両腕をしっかりと組んだまま。悠然とした態度を崩さなかった。

 

「見ちょけ☞ こん勝負、孝治が勝つけ☻☀」

 

「えっ? 嘘ぉ……☃」

 

 声の感じで、たぶん瞳が点の思いになっているのだろう。友美が信じられないらしい表情をしているのも当然。戦いの最中である孝治でさえ、帆柱のセリフが耳に届いたとき、思わず「うわっち?」と、声に出したほどであるから。

 

「こげな状況で、いったいどげな逆転ができるとですかぁーーっ!」

 

 思わずついでで、さらに大声を出して絶叫した。そこへ合馬が、大きく剣を振り上げた。

 

「お遊びもこれまでだぁーーっ!」

 

ここで『えーーい! めんど臭{くせ}えっ!』とばかり、とどめを刺す気になったのだろうか。

 

 ところが――またもやであった。突然の不測の事態が、孝治を危機一髪の状況から救ってくれた。

 

「うわぁーーっ! わわわわわっ!」

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 合馬が剣を空振りさせ、孝治はまたも悲鳴を上げた。

 

「じ、地震やぁーーっ!」

 

 孝治と合馬の戦いを傍観していた騎士のひとりが叫んだ。

 

 そのとおりだった。大地がゴゴゴゴッと、激しく震動を開始。誰もが立っていられないほどの激震が始まったのだ。


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