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『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (13)

「さあ、合馬さんとやら♐」

 

 孝治はこちらが調子に乗りまくっているうちに、すべての決着をつけようと考えた。

 

 帆柱先輩の『虎の威』を、思いっきり借りまくった格好で(だから正しくは『馬の威』)。

 

「そ、その人は、おれの大事な依頼人なんやけ、もう意地悪はやめて、さっさとこっから立ち去りや✈」

 

 それでも声は、かなりの引きつり気味を自覚。これはもう、孝治自身でもあきらめていた。

 

『なんカッコつけよんね☹ 火山の噴火が近そうなんやけ、あたしらかて早よ逃げんといけんとに☠』

 

 正論である涼子からのツッコミに応じる余裕など、今の孝治には有り得なかった。この一方で当の合馬は、見事に進退窮まった感じになっていた。

 

「う、うるせえ!」

 

 今までのドデカい威勢も、今はどこへやら。雄叫びも陳腐で貧弱。もはや負け犬そのものの遠吠えとなっていた。

 

 配下の騎士たちは、帆柱・孝治組の前に、全面降伏。こうなると最後の頼みの綱になりそうな戦力は、魔術師の朽網だけである。

 

「く、朽網ぃ! な、なんとかしろぉーーっ!」

 

 『語るに堕{お}ちる』とは、まさにこの有様。命令に具体性なし――に、さらなる拍車がかかっていた。これでは言われた朽網のほうも、ただオロオロ😰となるだけ。

 

「は、はあ……で、でも、どうやって?」

 

「魔術だぁ! なんでもいいから魔術を使えってんだよぉ!」

 

「で、ではぁ……☁」

 

 合馬から急かされ、朽網が黒い法衣の懐から、例の水晶玉を取り出した。

 

「それって、戦闘の役に立つっちゃろっか?」

 

 孝治は疑問をつぶやいた。占いや透視用の魔術道具を、今さらどのように活用する気なのだろうか。

 

 そんな孝治の背中から、帆柱の怒声が響き渡った。

 

「甘かぞぉ! 魔術なんぞ使わせん!」

 

 帆柱はまたしてもいつの間にか右手に持っていた槍を、早くも弓矢に持ち替えていた。

 

 さらに放たれた矢が、孝治の瞳のすぐ前を、音速でビューンと通り過ぎたのだ。

 

「うわっち!」

 

 その矢が朽網の右手にある水晶玉に、見事命中! いとも簡単に、パリンッと粉砕した!

 

「ひ、ひええええええええええっ!」

 

 これにて朽網も、戦意を喪失。地面に尻餅の醜態となった。こいつには他にも『火炎弾』などができるはずなのに、今の一撃で百パーセントのビビり上がり状態となってしまったようだ。もはや魔術での抵抗も忘れていた。

 

「先輩、戦いに夢中になり過ぎたら、もう周囲のことあんまり考えん無茶ブリするけねぇ☠ まあ、腕がいいけ、今んとこ大きな事故にもなっとらんとやけどね☢」

 

 孝治はボソリとつぶやいた。また、この水晶破壊により、孝治はひとつの謎が、少し大袈裟だが永遠に封印されたような気持ちになっていた。

 

 信用性の問題があったとはいえ、美奈子への疑惑に関する唯一の鍵が、これで完全に真相不明となったからだ。

 

「……こ、これでええとやろっか? ほんなこつ、なんもわからんまんまで……☁」

 

 しかし疑惑うんぬんはとにかくとして、ついに朽網も、戦力から脱落。残るは本当に、合馬ひとりとなったわけ。

 

 ところが合馬は、今なお問題の美奈子たちを虜囚の身としていた。孝治はそんな合馬に、堂々と詰め寄ってやった。

 

 帆柱先輩の威光を背景にして。

 

「ま、まあ、そこまでにしときんしゃいよ、合馬さん☠ もう、あんたの仲間は全員降参したとやけ⚐」

 

「ぐっ……☢」

 

 合馬がくちびるを噛んでうなった。すでに栄光の騎士の威厳など、一片のカケラもなし。だが、ここで降参している朽網が、合馬に思わぬ助言をしてくれた。

 

 敗北して、不貞腐れている態度そのまま。地面にあぐらをかいた格好で。

 

「中隊長殿よぉ、こうなったら、わしらの事情をこいつらに話したほうがいいんじゃねえのか☠ その女とわしらのどっちが正しいのか、きちんと話せば、こいつらも味方になってくれると思うぜ♥」


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