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『剣遊記T』

第六章 我、危険地帯に突入せり。〜霧島山の大決闘〜

     (12)

「この野郎ぉ! 『おとこんな』のくせしてから、オレたちば舐めくさりやがってぇ!」

 

 かなりにあせり気味なのだろうか。孝治の相手をしている騎士が、おのれの身分にふさわしくない罵声(それも今どき死語の悪口)を飛ばしてくれた。

 

「ちょ、ちょっと、あんた! いくらおれが元男っちゅうたかて、今んとこ女ばしようおれに、そげんマジになったらいかんちゃよ!」

 

 剣と剣とをカチ合わせたまま、孝治も汗まみれで絶叫した。そのついで、今になって再認識をした、くやしい事実もあった。

 

(やっぱ……初めて剣ば持ったときもそうやったし、女になっとう分、どげんしたかて力で押され気味っちゃねぇ☢ こりゃほんなこつ、一から修行のやり直しばい☠ さっきのウォームんときは、けっこう良かったっち思うたのにやねぇ♋☠

 

 しかしこの土壇場からは、またしても恒例の突然によって救われた。

 

「そこまでったぁーーい!」

 

「うわっち!」

 

「げぇっ!」

 

 孝治と騎士が、同時に驚きの声を張り上げた。それというのも、対戦中である現場の足元に、突如槍がビュンと飛んできたからだ。しかもそれは、ズブリと地面に垂直に突き刺さる際どさでもあった。

 

「もう戦う必要はなかけんな! 勝負は着いたったい!」

 

 槍を投げた張本人は、もちろん帆柱であった。彼は現場に孝治のいることを知りながら、構わずに槍を投げたわけ。槍の腕に相当の自信がない限り、誰もが決して行なわない荒技であろう。さらに今の帆柱の決めゼリフで、孝治と戦っていた騎士の目が、見事な点になっていた。

 

「へっ?」

 

 実は孝治も、同じでいた。

 

「うわっち?」

 

槍の件は、もう文句も言わないことにする。それよりも決戦場の空気が凄く大きく変化していることに、孝治と対戦騎士は目を奪われたのだ。

 

「ほ、ほんなこつぅ……☀」

 

 ほとんど呆然自失の気持ちで、孝治はつぶやいてみた。なんと帆柱の馬脚の下で、六人の騎士どもが明らかな敗北の顔となって、全員が地面に座り込んでいた。

 

「や、やっぱ凄かぁ……帆柱先輩は✌」

 

 戦いの終盤の様子など、孝治に見極める余裕などなかった。だが騎士全員が剣を失い、しかも戦意も喪失の状態であるのは、完全に明らかでもあった。

 

 さて、こうなると残りの騎士は、ひとりだけ。孝治は自分と戦っていたそいつの顔を、改めて真正面からにらんでやった。

 

「さあ、あんたはどげんするね?」

 

 そいつは顔面から血の気をなくし、貧血寸前のような青い顔になっていた。それでも騎士は、最後の気力を振り絞るかのごとく、孝治に言葉を返してくれた。

 

「こ、降参します……☂」

 

 孝治も言葉を返してやった。

 

「こっちかて、まだそこまで言うとらんのやけどぉ……☃」

 

 戦いの、呆気なさ過ぎる結末であった。いや、情けなさ過ぎ――とでも言い直すべきか。


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